＊カルマの欠片たち＊ (ページ9)

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白詰草-シロツメクサ-＊相葉雅紀＊２ページ9

３週間後、俺はまた駅のホームのベンチに座っていた。

ホーム内に吹く風が、俺の髪を揺らした。

パンツのポケットからタバコを出そうとし、禁煙だと思い出す。

グシャ･･･と無造作にポケットにタバコを戻した。

・

耳に残る甘い声。「雅紀」

瞼に残る笑顔、寝顔、拗ねた顔。

腕に残る抱き締めた体温、匂い･･････。

忘れようとすればする程、愛おしい。記憶は残酷だ。

見なくても、横にAが来たのが分かった。

俺の神経全てが、愛する人の存在をいつもこうやってすぐに感知した。

・

A「雅紀、久しぶり」

短くそれだけ言うと、Aが横にストン、と座る。

Aの手には２、３日の旅行に行く時にいつも持っていた茶色の旅行カバン。

本当なら今日は、新幹線で２時間弱の俺の故郷に旅行に行く予定だった。

････････結婚の報告に。

親父は美人のAに照れるだろうな。

母さんは手料理をいっぱい作ってニコニコ笑って俺のことを茶化すんだろうな。

妹のミカコは、ずっと姉を欲しがっていたから、一番喜ぶのはミカコかもしれない。

１ヶ月前に新幹線の切符を取った時は、そんなことを甘く、淡く、優しく考えていた。

・

長い睫のAを、相変わらず綺麗だな････と見つめる。

学生時代に高嶺の花だと思いながらもAに恋をし、

Aが涙を浮かべながら「雅紀の横にいたい」と言ってくれたあの夜を

今でもハッキリと覚えている。

愛してるよ。

何回も、何回も、何十回も、何百回も、言った。

言えば言う程、愛おしさが募った。

・

雅「･･･････別れて欲しい」

声が掠れる。

Aは前だけを見たまま何も答えない。

・

幸せにしたかった。

俺の手で、Aを幸せにしたかった。

ゆっくりとAの細い指を握る。その指は凍えるように冷たかった。

俺はこの冷たさも、抱き締めあった温かさも、全てを心に刻むから。

最後に触れた俺を、恨んでくれていい、憎んでくれていい、忘れてくれていいから、

雅「俺を忘れて･･･････幸せに、なってください」

掠れる声が、それだけを告げる。

・

俺のことを忘れて、幸せに生きて下さい。