＊カルマの欠片たち＊ (ページ20)

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優しい棘＊櫻井翔＊１ページ20

そ知らぬ顔ですれ違う。

一瞬、長い睫の向こうに、潤む瞳を見た気がしたが、それは俺の心が見せた幻だろう。

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長い、長い、恋だった。

許されない恋は、許されないまま、罪として命を終える。

俺は３０年以上、焦がれた恋を抱えたまま、命を終える。

罪を抱えて、命を終える。

この罪の重さが身体と心を縛りつける。楽にはなれないのだろう。

永遠の眠りについても、俺は楽になれないのだろう。

それで構わない。

君が。

君が、温かい場所で安らかに眠れるのなら、己の身も心も、罪と共に地獄に堕ちよう。

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・

随分、動きが鈍くなった足を無理やり動かし、書斎の椅子に深く腰掛ける。

ボスン、とクッションが沈む音と、黒い皮が軋む音が

１人きりの広い書斎に響いた。

壁一面に並べられた莫大な数の本を見上げる。

大事にしてきた本達も、俺が死んだら処分に困るだろう。

今のうちに図書館に寄付しておく方が、本も幸せだろう。そう思った。

「立つ鳥跡を濁さず」

死が遠くない未来の年齢になると、この言葉が身に染みる。

そして、ある程度の準備が出来る自分は幸せだと、苦い気持ちが胸に渦巻く。

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兄貴は３１歳。

たった３１年間の人生を、突然の事故で幕を下ろした。

何の準備も出来ないまま、何も知らないままーーーーーー。

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突然、耳元で声がした。

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「･･････お久しぶりです」

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一瞬驚いたが、もう慣れた。

この男はいつも突然だ。

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「独身を貫かれたのですね」

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その男、二宮和也が静かに微笑んだ。

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翔「･･････愛したのは、Aだけ」

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俺の言葉に、二宮和也が、眉だけをピクリと動かし、また静かに微笑む。

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和「A様の記憶に、櫻井様は残っていらっしゃらないのに」

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その嫌味な言葉に、小さく笑う。

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翔「俺を忘れて楽になれるなら、それで構わない。･･･････３０年も前に

あなたに言ったはずですが？」

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二宮和也がフフ、と笑う。

和「相変わらず的確なお返事でいらっしゃる」

微笑むこの男が、神なのか、悪魔なのか、俺は今も知らない。