夏の約束

六日目 ページ30

六日目



昨日は追い返されるように神社から帰ってきた。

おじさんの家に着いたらちょうどおばさんが帰ってきてて、どうしたのその格好！！ってびっくりされた。
崖から落ちたなんて言ったら心配かけるし、ちょっと派手に転んだって嘘をついた。


本当は崖から転げ落ちて怪我をして、山の神様に助けてもらったんだ。

神様には奇跡みたいな力があって、どんな怪我も治せた。
不思議な力ばかり持ってる神様は、ほんとは人間にあんまり近付いちゃいけないんだって。
それを山ちゃんはずっと謝ってた。


『ごめんねいのちゃん…俺のせいだ』
『わ、分かんないけど…そんな謝んないで』
『とにかくここにいちゃダメだ…ごめんね、一人で帰れる？』
『…うん……』
もしかして、もうさよならなのかな…

『そんな顔しないで』
『…やまちゃん…』
『この山から出れば大丈夫、神社のまわりは特に力が強いから』
『…もぅ、やまちゃんに会えないの…?』

『…会えるよ…また遊ぼう』


笑って見送られて、別れた。
けどもう会えない気がして、帰り道の途中で神社のある山を何度も振り返った。






｢人間じゃ…なくなるかぁ…｣

あのまま山ちゃんと一緒にいたら、そうなっちゃうんだって。
タヌキの言葉が分かるようになったり動物がやたら寄ってきたり、そんな不思議な能力ならべつにあってもいいけど
帰れなくなる…って言ってた。

家に帰れないってこと…?それは…確かに困る
でも帰るまでに、一緒に遊べるなら遊びたかった。
ここに居るのもあと少しだから、昨日は雨の中会いに行ったんだ。その前の日も、俺が山ちゃんの所に押しかけた。


｢俺が神社に行かなきゃ良かったのかな…｣


山ちゃんは今まで、夜中にこっそり会いに来るだけだったもん。



いつも思い出してしまう。

眠れないってやってきた日のこと
山ちゃんが寂しいなら、
俺でいいなら一緒に居るよって言ったんだ。

山ちゃんは何も言わなかったけど、
布団の中で握られた手の感触を覚えてる。

ほんとは寂しいって言ってる気がした。


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