2.休み時間 ページ3
「トントン先生、プリント持ってきましたよー」
プリントの山を抱えて、職員室を歩く。トントン先生のデスクまで運ぶと、椅子に座った先生がくるりとこちらに体を向けた。
「すまんな」
「お代はコーヒーでいいですよ」
「ちゃんと褒美を要求すんのかーい」
「冗談！」
トントン先生は自分のデスクを開けて、机からチョコレートを取り出した。
「お駄賃や」
「チョコレート！先生誰にもらったんですかー！」
「自分で買うたわ」
バレンタインデーでもないけど、少しおしゃれなパッケージは多分贈り物だと思ったんだけど。
「先生彼女さん居ないんでしたっけ」
「何で知ってんねん」
「みっちゃんが言ってた」
誰だろう、みたいな顔を一瞬したので、フルネームを伝える。他クラスの生徒だけど、先生はそこの数学も担当なはず。
「お前は交遊関係広いよな」
「長所欄に書けますね」
「ほんまや。……あ、A、ちょっときいてええか」
「なになに？」
「秋原のことやねんけど」
秋原風花。窓際の席で本を読んでいる女子生徒だ。
「うん？風花がどうかしました？」
「クラスではどんな感じや、友達出来てそうか？」
なるほど。確かに一人で本を読んでいるから私も気になったことはあった。
「私も前に気になったから声かけてみたんだけど、風花は別に孤立してる感じじゃないですよ。あれは休み時間にわざとやってるだけ」
トントン先生は首を捻った。気持ちはわかる。
「体育の授業とか普通に騒いでるから」
「なるほど？まぁ大丈夫やねんな」
「うん、びっくりするから見てみなよ」
「体育の授業を？」
「そうです」
先生、目そらしたね。
別にそんなに警戒しなくても、下心あるとか誰も思わないと思うけど。
「とりあえずよかったわ、ありがとう」
「どういたしまして」
「次の授業は？」
「現文！」
「ほーん、頑張り」
「頑張りまーす」
ひらひらと手を振ると、トントン先生も雑に振り返してくれる。
優しい。そういうところも好きだなぁと思う。
お辞儀をして職員室を出た。
トントン先生、担任だもんな。風花のことも気に掛けるだろう。
教室に戻ると、窓際に目が行った。
秋原風花。綺麗な手入れされた黒髪の大人しそうに見える女子。彼女は窓際で本を読む、……振りをしている。
「風花」
「ん？あぁ、おかえりAちゃん」
彼女とはじめて話したのは４月、新しいクラスになって数週間たったくらいの時期だった。
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