1.数学の授業 ページ2
このクラスになってから2ヶ月が経った6月の頭。6月とは思えない暑さでもまだクーラーはつかなくて、窓を開け放ち下敷きで扇ぐ。
教壇では担任のトントン先生が黒板に数式を書いている。その後ろ姿を見て、私は今日も幸せな気持ちになるのだ。
担任がトントン先生で良かった。
進路について相談したのは2年の半ば。トントン先生は親身になって話を聞いてくれて、私の背中を押してくれた。
3年生になった今、トントン先生をなるべく助けたいからと委員長になった。あんまり真面目キャラじゃないと思うけど、トントン先生はよく『お前は根が真面目や』と言う。
たしかにそれは間違ってないかもしれない。
私はトントン先生が好きだ。恋愛的な意味で好きだ。
でもそれは先生が困るってわかってるし、許されることでも叶うことでもないとわかっている。
だからただのいい子でいる。これが根が真面目ってことかな、先生。
「次の問題をー……ほんなら、A」
「はーい」
先生は、クラスの中で私を当てる回数が多いことに気付いてる？
それは私が委員長やってるから？数学だけ得意だから？いい子にしてるから？
黒板に答えを書いて、ちらりと先生の方を見ると、笑いながら頷いた。合ってるよってことだろうか。
「合ってました？」
「正解」
「やった！」
トントン先生が好きだ。そうやって優しく笑うのも。
生徒として大事にしてくれているのがすごくわかる。それを不満だ、なとど言えるわけがない。
トントン先生が私の先生ではなかったら、恋愛だってできたかもしれない？
私の先生だったから、トントン先生を好きになったのだ。
この気持ちは、せめて卒業までは隠し通そう。卒業したとて元生徒、トントン先生に恋愛対象として見てもらえるとは思えないけど。
卒業式に言い逃げるくらいは許してほしい。トントン先生の忘れられない生徒の一人になれたらいいのにって思うから。
それ以上は望んではいけない。
去年、先生と生徒が付き合っている噂が流れて、生徒側が転校したことで噂は落ち着いた。
先生がそんなので退職になってしまったらと思うと、私はトントン先生にアピールなんてできない。ただのいい生徒のままでいい。
「このプリント、書けたら集めて職員室まで持ってきてほしいねんけど、」
「はーい先生、まかせて！」
誰に、と指示する前にそう言った。
少しでも先生と話したくて委員長やってるんだから。
「いつもすまんな、A」
全然！役得役得。
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