先輩を困らせたい【風丸一郎太】 (ページ3)

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風丸はグラウンドへ向かった。早朝に走ることが彼の日課なのだ。風丸が走り出す。それを黙って眺めるA。水色の髪が風になびく。スローモーションのように鮮やかに見えた。走っていると頬に冷たい風があたる。

『ｸｼｭﾝ』

小さくくしゃみをするとAは寒そうに身を縮めた。グラウンドに出るとは、思ってはいなかったためか薄着だった。その上、運動していない。その事に気がついた風丸がAにフワッと自分のジャージをかけた。Aは、最初驚いた様子で口を半開きにしていたが、照れた様子で言った。

『これじゃあ風丸先輩が寒いですよ』

「いいから着てろ」

風丸はそう呟き照れくさそうに顔を赤らめた。ぶっきらぼうな返事だったが、その一言に優しさを感じた。ジャージからは、彼の匂いがした。胸いっぱいに吸い込みたくなるほど爽やかな匂い。それに先程まで着ていたためかほんのり暖かかった。

『あれ、袖から手が出ない』

「仕方ないだろ、俺のなんだからお前には大きいに決まってる」

今、Aがしているのは世間で言う“萌え袖”という物だ。Aが小柄であるのも1つの理由だろう。

『風丸先輩、そろそろ朝食の時間ですよ』

「そうだな、食堂に行くか」