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「遅かったね、陣左、尊奈門。殿には取り次いであるから早く案内しといてね」

 またわたしたちですか……と、目の前で話し合う二人。
 またってことはいつもこうなのかな、苦労してるんだなぁ。
 
「いや、わたしが案内する。山本陣内という、よろしく頼む」
「わたしは上杉Aと申します」

 軽く挨拶をし、それ以降は無言だった。気まずいより、背筋がピンと張り緊張していたので無言が嫌だとかそういうのはない。

「殿の部屋はここだ、わたしはここで待っている。くれぐれも粗相の無いように」

 殿様か……。なんか賄賂みたいなの渡した方がいいかな?
 たしかここの殿様は戦好きだったような、機嫌とか損ねたら絶対まずいだろうな……。
 いつか、武家の娘で自分が大名だとバレてしまう可能性もあるのだから、あまり刺激せずむしろ友好的な関係でいよう。
 なんて、打算的な考えで山本さんに挨拶を交わす。

  この世界に生まれてきてわかったことは、忍たまの世界であっても、戦で人は死ぬし、ある一つの言葉が命取りになることもある。領民を守るという立場があるなら余計に気を遣わねばならない。生き残るためにもだ。

「はい、越後国から参りました。上杉Aと申します」
「入れ」

 失礼いたします、と一声かけ部屋に入った。

「黄昏甚平衛様、このたび宿のないわたくしめに、慈悲のお心を分けてくださりうれしく思います」
「ほう、越後か南蛮の衣装が有名であるな」

 かかった! よし! たしか新品の衣装が残っていたはず……。持ってきておいてよかった!

「左様にございます。……黄昏甚平衛様は南蛮衣装好んでいると耳にいたしました。気に入ってくださるかは別として、どうかお納めください」

 Aは自分が持ってきた荷の中から、木箱をさし出した。
 好んでいるなんて、ほんとは聞いてなかったけど終わり良ければ全て良しだし。

「なんと……これは……」
「越後国では南蛮の市が多く見られるので、勿論御代はとりません」
「見事な深碧のカパじゃ、気に入った。礼がいらぬのなら、これからは貿易の相手としてみたいどうじゃ?」
「ありがとうございます。しかしながら、ここではできぬ相談であります。また詳しいことは後程……」
「うむ、さがってよいぞ」

 部屋を出ると、山本陣内と呼ばれた忍者が廊下で私を待っていた。

「殿との話は終わったようだな。今日は寝泊まりする女中部屋に案内する。こっちだ」
「わかりました」

3→←3話-1 タソガレドキ領へ行こう



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作者名:シャビ | 作成日時:2023年12月27日 23時

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