1話-1 主人公あらすじの段 ページ1
ここは、とある武家屋敷。
夜も更けたこの時間に、忍務を承るおんながおったと。
この女、元服したものの結婚しておらず、ある武家の家督を受け継いであったと。名はAという。
「この度、大川殿からのお願いがある。『天女』という少女を始末してほしいそうだ」
大川殿とは忍術学園の学園長だ。
この女の父親とは古い仲であった。
「してAよ。この依頼受けてくれるか?」
「――はい。ですが何ゆえ私なのでしょうか? このくらいの任務には私が直接行く必要があるとは思えませんが……」
「……大名の其方にしか任せられぬのじゃ。本来ならわしが行かねばならなかったがのぉ。げほっ、げほ……」
Aの疑問をそうそう打ち消すよう、命令をくだされた父の言うことならばと、Aはそれ以上何も言うことはなかった。それよりも、咳がでる父が心配になるAだった。
「それより、父上、お加減はいかがでしょうか」
そんな、心配な顔をする娘に対し、60を過ぎた男は、布団より状態を起こしてAに笑みを向ける。
この時代、60は長生きしているほうだ。
「Aよ、心配はいらぬ。それよりそなたこそ、『天女』とやらに気をつけるのじゃぞ」
「承知しております。では行ってまいります。なにかあれば、義虎にお伝えくださいませ」
「うむ。では、頼むぞ」
Aは大広間の襖をぴしゃりと閉め、姿勢を崩さないように立ち上がった。病弱な父が国を空けている間に亡くなるかもしれない。そんな気持ちを抑えながら後ろ髪を引かれる想いで部屋を出たのだった。屋敷の静けさがAの心を包み込む。しかし、彼女は独り、父の部屋の前に立っていた。その部屋からは父の微かな呼吸音が聞こえるだけだった。病気の父を置き去りにするのは心苦しいが、大川殿からの依頼は待ってはくれない。
「父上……」
彼女は部屋の襖をそっと開け、父の寝顔を見つめた。病気の父は眠りに落ちており、穏やかな表情を浮かべていた。彼女の心は複雑だった。父親の面倒を見ていたいが、父親の言葉に逆らうこともできない。それに、父がお願い事をしてくることなど少ない。ならば、父の願いを叶えようと心に決めた。
「おやすみなさい、父上。良い夢を……」
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作者名:シャビ | 作成日時:2023年12月27日 23時