アイツの背中

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こっちに向かって、おっきく両手を振ってる。


なんという、派手な服装。


これじゃ、ますます目立つわ。




チケットはヤスくんが準備して来てくれてた。


「今日のAちゃん、可愛いなあ。
いつもみたいなできる女風もカッコいいけど」


ヤスくんが手放しで褒めてくれて、
帰りたい病はなくなった。


いつもは出来る女風ではなくて、
仕事忙しくてかまってられません女だけどね。


「今日はルノワール展やねん。
アネモネって絵で有名やねんて。
知ってる？」


ヤスくんが教えてくれた。

だから平日の割にこんなに人が多いのか。


「知ってる。
中学の美術の教科書に載ってたよね。
アネモネの花、私も好きだなあ」


私が答えたら。


「へえ。
ほんまもんが分かれへんから、
俺、帰りに花屋寄ろう」


もう決めてるの。

ヤスくんて、ほんと純粋な人だな。



中に入ってしばらくして。


絵を見てたら、
後ろからばさって肩に何かかけられた。


オークラのシャツだ。


すっごくおっきい。


それに、ほんのり、
甘いいい匂いがする。


きゅんてしちゃって、ちょっと、どうしよう。


「着とけ。
寒いやろ」


低い声で、そっぽ向いたまんまで、
ぼそっと一言。


冷房よけのカーディガンなら、
いつもバッグに常備はしてるけど、
いいよね。

これぐらい。


「ありがと」


けど、オークラは？


薄手のＴシャツしか着てないじやん。


「オークラ、寒くないの？」

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