また一つと失うもの ページ12
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次の日も、その次の日も、具合が良くなるどころか悪化していった。
『(朝起きるのがツラいって、こういうことなのか……)』
貼り付けた笑顔を母に見せ、気持ち悪さに耐えて朝食を胃に流し込む。
朝練行くまでの距離がだんだん長くなっているように錯覚しながらも、項垂れるように体育館へと向かう。
「はぁ〜……ようやく暑さも和らいできたな!外の風が涼しくなってんで」
「ほんとだ。でも、これから寒くなるってのを考えるとちょっとなぁ……」
『角名は暑くても寒くてもすぐ文句言うねんな』
「だってやなものはやだもん」
今までと何も変わってないように演じるために普段通り角名にツッコミを入れるが、前ほどたくさん話せなくなってしまった。
授業中は体力を回復させるために、ほとんど寝て過ごすようになった。
いつも授業中に読んだり書き込んだりしていたバレーノートも、今は鞄の中に眠らせたままだ。
「おーいA、起きて〜。部活行くよ」
寝ても覚めても気持ち悪さは残ったままだった。
頭を叩かれ伏せていた顔をゆっくりと上げると、荷物を肩にかけた角名と銀が待っていた。
「うわっ、おでこ真っ赤」
「最近のAはよぉ寝るなぁ」
なんだか異変に気づかれたような感じがして、一瞬肝が冷えた。
『あー、その……睡眠の秋言うやろ?俺もたくさん寝てすこやかに育つんよ』
「これ以上デカくなってどうすんのさ」
『角名クンは自分の身長がもう伸びないの、気にしてはるんすか?』
「は?何、置いてかれたいの?」
『待ってや!置いてかんといて〜』
上手く誤魔化せたみたいで、少しほっとした。
放課後の練習もどうにか周りの人とペースを合わせていたが、トレーニング終了後にはどっと疲れてしまっていた。
そもそも体力が低下しているうえに、平然を装うため具合悪くなる前のように色々無駄な動きをしていたので、部室に戻るまでが難しくなった。
『(……俺、めっちゃ情けないやん)』
体育館の壁に寄りかかって座り、頭に被せているタオルで口元を抑えていると、角名が寄ってきた。
「何してんの。帰るよ」
『まだフローターの精度磨きたいねん。監督から体育館の鍵預かっとるし、俺が戸締まりするから先帰っててええよ』
「……ねぇ、それオーバーワークだよ」
『俺を誰やと思うてんねん。俺の心配する前に自分の心配した方がええんちゃう?』
言ったあとに、自分の言葉に棘があることに気づいた。
謝ろうかと思ったが、その前に角名はいなくなってしまった。
体育館には、俺一人だけが残った。

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ひな - 最新話見ました。稲荷崎バレー部の皆が優しすぎてちょっとうるっときちゃいました。更新楽しみにしています。無理しないで頑張ってください。 (4月8日 22時) (レス) @page33 id: 7014c4b6f4 (このIDを非表示/違反報告)
いぶ(プロフ) - 最新話までいっき見しちゃいました大好きですTT更新楽しみに待ってます😿 (4月1日 2時) (レス) @page33 id: c54cc0078f (このIDを非表示/違反報告)
ハチ - このお話大好きです!!続き楽しみにしてます! (1月6日 15時) (レス) @page32 id: c8c2b99305 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆきや | 作成日時:2024年7月21日 10時