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朝食をとり終え、彼はパソコンを睨みつけ、
私も家事に取り組むいつもと変わらない真っ白な日常。



そんな日常に風穴を開けてしまうことに一瞬怯んだが。



『よしくん』
「何?」



彼は怪訝そうな表情で顔を上げた。



ばち、と目が合う。私の言葉を待つように、彼は首を傾げた。



『今日、スモアが買ってあるの。食べない?』



何の前触れもなく口から出た発言に
彼は分かりやすく顔を歪めた。



「スモア?」
『ほら、マシュマロのお菓子』



あぁ、と呟く声が聞こえる。

でも、もう目は合わなくなっており、
彼の視線はパソコンに向かう。



「僕はいいや、A食べていいよ」



笑顔を貼り付けた、虚の表情で返されて心が傷む。


『いいじゃん、一緒に食べたい。』



いつもなら引き下がるのに、
何故か今日は引き下がることはできなかった。



沈黙がやけにうるさく耳に響き、

その響く音は自分の鼓動であることに遅れて気づく。




「僕、午後から仕事なんだけど?」



貼り付けた笑顔はいつの間にか剥がれてしまったようで。


冷たい声が心臓にひどく深い傷を残す。痛い。


だるそうな表情でパソコンから視線を動かさない彼のおかげで、
私のぎこちない笑みも意味をなさなくなる。




続きこそ言わなかったが、つまり、


"午後から仕事だから、午前ぐらい自由にさせてくれ"


ということだろう。


分かっている。

彼が忙しいことなんて、百も承知であって。


彼の中に、私に構う時間という概念は残っていないことだって、私は分かっている。



それでも、言わなかった彼の真意には、気づかないフリをして続けた。



『じゃあ、今は暇でしょう?』




非常に強引ではあるが、
この機会を逃してしまえば、今踏み出したのが無駄になる。



逆にここで引き下がることによって、踏み出した分だけ。
その分だけ、何かが壊れてしまう気がした。



何が壊れるのかは分からない。
そもそも壊れるものがあるのかすらも分からない。



でも、彼と目が合った瞬間に思ってしまった。



この時に賭けるしかない、と。




甘いものが好き。
可愛いものが好き。
走ることが好き。
楽しいことが好き。
笑うことが好き。


…そして、私のことが好き。



私の中でのよしくんは、過去で止まっている。
彼にまつわる記憶は、過去のまま。
近頃は、更新された覚えすらない。



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03→←不透明で、不完全な、昼前/ぷち。



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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年3月29日 15時

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