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「上がって。適当にくつろいでいいよ」
先輩の家、にて。
1人で住むには少し高そうなオートロックの玄関を抜けると、彼はお菓子をいくつか此方に手渡しながらそう言った。
適当に、だなんて言われても。
流石に元彼の家に寝転がってダラダラとテレビを見る勇気なんてない私は、とりあえずソファに座って和菓子を1つつまむ。あ、美味しい。
特にすることもないので部屋を見渡してみるが、特別変わったものがある訳でもなく。白を基調とした家具がほとんどで、書類や娯楽品もすべてあるべき場所にキッチリと納められている。端的に言うなら殺風景だ。
──なんか、生活感のない家。
以前訪れたときとは大きく違う。
私の記憶の片隅にある彼の家とは恐らく住所が変わっていたから、きっと就職に伴って家を移したのだろう。そう考えると、内装が変わっているのはなんら不思議なことではないのだが。
「そんな気になる?」
私がキョロキョロしていたのがバレたのであろう、少し笑みを含めてそう尋ねてきた河村先輩。
なんでもないです、と首を振れば「ふぅん」とつまらなそうな返事が返ってくる。自分が聞いた癖に。
「俺シャワー浴びてくるけど。A先浴びる?」
「え」
さも当然のように、毎日の日課のように問う彼。
この時間に家に招かれたということは泊まる流れになると予想はしていたものの、あまりにも自然な問いに違和感を覚える。
もしかして、こうやって女を家に連れ込むことなんて日常茶飯事なのだろうか。昔はその手の行為を好意的に思わなかった彼だが、ここ数年の空白の心の変化なんて私には知る由もない。
──じゃあ私が今日呼ばれたのも、そういうこと?
「……何考えてるか知らないけど、変な意味じゃないよ」
「……え、」
「普通にシャワー浴びればって言っただけ。そんな気まずそうにされても困るんだけど」
そう苦笑されて思わず顔が赤くなる。
何考えてるんだ、私は。変態か。元彼の家だというだけで変に勘ぐったり想像してしまったりしてしまっていた自分が嫌になる。
「……私はもう済ませてるので。先輩、気にせず入ってきてください」
「そ。分かった」
そう言って暫くすると、奥の方の部屋からシャワーの水が床を打つ音が聞こえてきた。
彼女でもないのに、異性のシャワーの音を聞くなんて変な感じだ。そもそも私がこの家に招かれたこと自体、変なことではあるのだが。
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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月29日 15時