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「……あの、良いですよ、ここで。駅までもう行けますし。先輩はどっかで時間潰してオフィスに戻って下さい」
「行きは案内させたのに?」
「そ、れは……」
「…ちゃんと帰れなくて何かあったら嫌だから送ってく」
Aが地理に強いことはよく知っている。昔は何度も彼女を地図代わりにしたこともあった。その為嘘だと気付くのは簡単だったが、俺と話すチャンスを与えてくれた彼女の嘘に付き合いたかった。
俺の隣で歩くのは嫌なのだろうか。Aは俺の斜め後ろを定位置にして後を追う。
周りが住宅地という事もあり、二人の足音だけが耳を刺激する静かな空間は少し居心地が悪かった。
謝るなら今しかない。そう思っても、どう話しかければいいのか分からなくて。そんな時に口を開いたのはAだった。
「…先輩、ごめんなさい」
「道分かんないって嘘吐いたこと?」
「そ、それもですけど。最後に会った日の、こと」
「…………どっちも謝らなくていい」
「え…?」
「道案内は、俺と関わろうとしてくれて嬉しかった。……それと、あの日のことはむしろ俺が謝らなきゃいけないから」
「そんなこと……」
「ごめん、本当は応援するべきで、あんなこと言うつもりなかった。あの日からずっと後悔してた」
歩みを止めた俺に合わせてAもその場で立ち止まる。斜め後ろにいた筈の彼女は隣に並んでいた。
そしてやっと、目が合う。
「酷いこと言ってごめん」
「私こそ、自分勝手な事をして…ごめんなさい」
側から見ればさぞ不思議な光景だったことだろう。住宅地の中、二人の男女が向き合いながら頭を下げられる限界まで下げているのだ。
「あの日泣かせて、後から受け取った手紙でもあんなにいっぱい謝らせて、本当にごめん。それなのに…俺のこと見捨てないでくれて、ありがとう。……Aさえ良ければまた俺の後輩になって、ほしい」
「もう先輩は私の先輩じゃないです」
「……そう、だよね」
「違う違う。その…お友達から、始めませんか!福良さん」
午後二時。やっと、俺に向けてくれた笑顔は太陽なんかよりも眩しくて、幸せだった。
俺は麻雀が嫌いだった。
彼女を遠くに連れて行ってしまうから。
それでも、彼女とまた再び巡り会わせてくれた麻雀に強く感謝した。
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ぶっく。(プロフ) - どの作品も本当に素敵で、すべての話で心を動かされました!文章がとても綺麗……!最高の7名がそれぞれちがう時間を軸にした物語を展開されていて、本当にそれぞれちがう良さがありました。読んでいてとてもとても楽しかったです!ありがとうございました! (2020年4月8日 4時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 神作者の皆様、執筆お疲れ様でした!どれもこれも素敵な作品で、一つ更新される度に胸を躍らせていました。本当に素晴らしい作品を有難う御座いました…!! (2020年4月8日 0時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
還元(プロフ) - いろさん» 読んでいただきありがとうございます。この後もまだまだ素晴らしい作品が続きますので、どうぞ最後までお付き合いください!コメントもありがとうございました! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 0ea79b5d61 (このIDを非表示/違反報告)
はるむにに(プロフ) - 神々の集まりですね、、本当すごいです(語彙力)次のお話も楽しみにしております! (2020年4月1日 22時) (レス) id: 33dd96b3e7 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - なんと…凄い神々が集まって作品をお造りになられたのですね、一話目から凄かったです。皆さんの見れるなんて…最高です。ありがとうございます。 (2020年4月1日 20時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:830 x他5人 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月29日 15時