1. 奪うのは ページ10
「ドレスに着替えろ」
ウルドがそう言ったのはつい一時間ほど前のことだ。
その言葉の意味は知っている。
これからボリショイ劇場に向かうのだろう。
命令口調ではあるが、これは彼が遠回しに外出に誘ってくれているということ。
もちろん、ついていく。
とはいえ、女には準備というものがある。
ある程度の時間は必要だ。
開演の時間はウルド次第なので特に問題は無いものの、彼を待たせる訳にはいかない。
あわただしくしまい込んでいたドレスボックスを出し、それと合わせたヒールを出し、手早くアクセサリーもドレッサーの上に出していく。
日本から戻ってきて始めての観劇だった。
暫くはウルドの過保護が抜けず、部屋の外に出る許可はあったもののワシリイ聖堂からは出られれなかったために、とても久しぶりの外出だった。
行く予定だったあの日に奪われた楽しみを今日やっと取り戻す。
とりあえずドレスだけを纏って、ドレッサーに座るとメイクに必要な道具を出していく。
これらも廃屋となった百貨店から持ち出したものだ。
ガラス製のショーケースに入っていたということはそれなりのブランド物かもしれないが、この何もかも変わり果てた世界では大して気にする必要の無い事だ。
メイク道具を広げ、こうして鏡で落ち着いて自分の顔を見るのも久しぶりだった。
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くれは(プロフ) - 完結おめでとうございます!ふと、ウルドが恋しいと思い戻ってきてこの作品を拝見しました。とても素敵な作品でした。この一言で終わらせるには勿体ないですが、ここら辺で…他の作品でお会いできたらな…と思います! (2021年5月28日 19時) (レス) id: 8383034622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年7月11日 23時