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ノックをして部屋に入ると、ウルドはそこに居た。
ワイングラスを片手に仕事をしているようだったが、そのワイングラスから香る鉄の香りは今のAにとって毒に近いものがあった。
Aがこの部屋に出入りするのは日常茶飯事で、あまり気にも止めていなかったウルドだったが、何か視線のようなものを感じてふと彼女を見た。
「どうした?」
「……」
「何かあったか?」
「私、血を飲もうと思って」
「そうか」
ワイングラスをコトリと音を立てて机に置いたウルドは書斎机の前に立つAの頭を撫でた。
親以外の血を飲んだからといっても、今のこの生活の何が大きく変わる訳でもないが、目が赤く染まり容姿は成長を止め、人間の心とは決別をせざるをえない。
吸血鬼となり少しずつ失われていた人間性が今度は恐ろしいペースで削られてく。
今のAに戻ることはできなくなる。
ウルドはそっと指を薄菖蒲の色を持つ髪に絡めた。
机を挟んでいるせいで少し距離が遠くてもどかしい。
「私と永遠を生きる覚悟はあるか」
「もちろんです」
「私はお前がどんなに望もうが離してやれないからな」
「知ってます」
「…なら、良い」
Aを手放した彼は薄く笑った。
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くれは(プロフ) - 完結おめでとうございます!ふと、ウルドが恋しいと思い戻ってきてこの作品を拝見しました。とても素敵な作品でした。この一言で終わらせるには勿体ないですが、ここら辺で…他の作品でお会いできたらな…と思います! (2021年5月28日 19時) (レス) id: 8383034622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年7月11日 23時