1. 色褪せた世界で耀くのは ページ42
吸血鬼たちが家畜と呼ぶ、ウイルスによる殺戮から免れた人間の子供が暮らす場所を一人でふらりと散策しているA。
以前は何かをつぶさに感じていたにも関わらず、荒廃した世界で悠々と生活をする彼らを眺めても何の感慨も浮かばない。
どうやら人間性というものが少しずつ抜け落ちているらしい。
これに気づいたのは少し前のことだ。
そもそも、Aは保護されて以来、他の吸血鬼から守られて上位始祖二人の元で過ごしてきた為、外の世界を知らない。
彼女の世界はウルドとルクだけで構築されていた。
やっと最近になって一人で外を歩くことを許され始めたことで彼らの元を離れる事が増え、新たな世界が開けたが、その世界は酷く色褪せていた。
感じるにも、何か膜のようなものを隔てているような不鮮明さ、自身の鈍感さを酷く感じるのだ。言ってしまえば、心が停滞しているような。
帰ってウルドに相談してみようか、そんなことを考えていると聞き覚えのある声が掛かる。
「あ、ルク…」
「A、こんなところに居たのかよ。ずいぶん遠くまで来たなぁ」
ずいぶん遠くまでとルクは言うが、吸血鬼の足で来るとなると、ここまでは数分もかからない場所だ。
確かにAがここまで出歩く事がなかった分、遠くかもしれないが、少し納得がいかない。
Aだってもう一人で歩ける。
ひ弱な人間だった頃と一緒ではない。
「ちょっと過保護過ぎませんか」
「うーん…でもウルド様が探せって」
「なら仕方ないです。戻りましょう」
簡単に折れてウルドを元へ戻る選択をすると、ルクは心なしかほっとしているようにも見えた。
ウルドに何かあったんだろうか。
「何か起きたんですか?」
「いや、違うさ。たぶんお前が近くに居ないと落ち着かないんだろうなぁ」
特に取り立てて用件は無いらしいが、戻れ。
ということらしい。
なんだか面白いなぁ。
くすりと笑い、心がざわりとした感覚に少し違和感を覚えた。
先ほどまでとうってかわって、停滞していた心が動く気配がある。
ウルドのことになると心が揺れ動く様だ。
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くれは(プロフ) - 完結おめでとうございます!ふと、ウルドが恋しいと思い戻ってきてこの作品を拝見しました。とても素敵な作品でした。この一言で終わらせるには勿体ないですが、ここら辺で…他の作品でお会いできたらな…と思います! (2021年5月28日 19時) (レス) id: 8383034622 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年7月11日 23時