1. 食事 ページ40
ノックをしても気配はあるが返事は無く、不審に思ってドアを開けてみれば、椅子に座っているはずのウルドよりも先に、第二位始祖の彼に背を向けて跨がるようにして座るAが目に入った。
部屋に漂う濃い鉄の香りと、二人の体勢、その二つの手がかりを得た利発なルク。
頭を"食事"の二文字が過る。
「あれ、ウルド様…お食事中でした？」
変に邪魔をしただろうかと、気づかうように声をかけてみたが、ウルドが気にする素振りを見せなかったことで少しだけ安堵した。
それどころかAの血を吸うことを止めないつもりらしく、ルクの声に反応して逃げようとした彼女の体をガッチリと抱き込んだ。
吸血鬼であるAもそこそこの力があることは承知だが、今、彼女を捕まえているのは第二位の位を持つ吸血鬼だ。
これは逃げられそうもない。
身動ぎをしてしまった彼女に更に深く刺さった牙は強い快感を与えた。
「っ！…んぁ…やめ……て」
つい漏れた声にはっと我に返ったAは空いた口を快感に痺れた手で塞ぐがもう遅い。
ルクの耳に届いた後だ。
困ったような、苦虫を噛み潰したような、そんな顔をしたルクは眉尻を下げて、この過激な食事の現場に立ち入ってしまったことに後悔した。
Aの紅潮して恥じらう顔をこうして真正面から見せつけられるのは、正直耐え難い。
誘惑をする血の独特な鉄の香りとエサを目の前に置かれているが手に入れることを許されないこの現状を思えば、吸血鬼という種に属する者なら誰でも苦痛を覚える事だろう。
片や、満たされる吸血鬼と
片や、渇きに耐える吸血鬼。
ルクは未だに彼女の血を啜る吸血鬼を少し恨めしく思う。
ひとたび血の臭いを嗅がされてしまえば、拷問に近いほどの渇きに襲われることを重々承知の上でウルドは彼だけの特別な獲物を好きに扱っているのだ。
だからといって、この血の香りの元となっているAに襲いかかろうものなら、彼女の後ろに居る男が確実に命を奪いに来ることが目に見えている。
ルクはため息を吐いた。
彼にはこの部屋に足を踏み入れた時から、権利がない。
できるのはこの見るに耐え難い光景を我慢し、耐え抜くしか方法がないのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 83人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
くれは(プロフ) - 完結おめでとうございます！ふと、ウルドが恋しいと思い戻ってきてこの作品を拝見しました。とても素敵な作品でした。この一言で終わらせるには勿体ないですが、ここら辺で…他の作品でお会いできたらな…と思います！ (2021年5月28日 19時) (
レス) id: 8383034622 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こんぺいとー | 作成日時：2020年7月11日 23時
