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ウルドが向かった先はもちろんAが眠る場所だ。
そっと扉を開けてみると、彼女は穏やかな眠りに身を任せていた。
鎮痛剤がよく効いた様だ。
あばら骨を折ると骨が付くまでに時間がかかる上に、安静以外にこれといって方法がない。
彼女も例に漏れず安静が必要となるだろう。
ウルドはベッドの傍らでため息をついた。
このような形での再開は望んでいなかったにも関わらず、とりあえずはAを死なせず済んだことに安堵していた。
人間は吸血鬼より遥かに脆く弱い生き物だ。
片手で首を握り潰せばあっという間にこの世から命が消える。
ウルドはなぜAをまるで守るように助けたのか、それが自分でも疑問だった。
彼女に何かを感じているからなのか、単なる純粋な興味なのか。
Aが目覚めたら、何者なのかもう一度問うてみよう。
本当にただの人間なら、もう彼女に関わることは二度としないで静かに姿を消すだけだ。
ノックする音に声だけで応答するとルクが入ってきた。手には果物が入った袋。
早速先ほど頼んだ仕事を済ませてくれたようだ。いつも仕事が速くて助かる。
「あの人間はどうするんですか?」
「……」
「俺は何を考えているのかわかりませんけど、人間をここに置くのはあまり良くないと思いますよ」
例え目が覚めるまでの短い時間であっても、人間を餌としてしか捉えられない吸血鬼だらけのこのような場所に、一人の人間を置くことの危険さは承知の上だ。
だから彼女を自室に運ばせた。
目が覚めても彼女が望まない限り、ここから出すつもりはない。
吸血鬼が血の欲には抗えない事を身をもって知っている。
まだ今のところは過度な渇きを感じていないものの、現に今も規則的に脈打つAの首に自然と視線が行ってしまうことを抑えられていない。
それはルクも同じだろう。
「彼女が目覚めるまでここに居る」
「わかりました。…あ、ウルド様」
「なんだ」
「食事、運んで来ましょうか?」
ウルドは無言で眉間にシワを寄せた。
ルクはそれを無言の肯定と受けとると、そそくさと部屋を後にした。
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れん(プロフ) - タコさん» ありがとうございます!頑張ります! (2020年5月25日 13時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
タコ - とっても面白いです。これからも頑張ってください! (2020年5月24日 16時) (レス) id: 805d2b00fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年5月19日 23時