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一方、その頃Aはウルドに指示された通りに荷物をまとめていた。
まとめると言っても、Aの私物はほとんどウルドやルクに与えられた物で、それらをトランクの中に再び戻す作業だ。
ふとウルドが与えてくれた服を掴むと昨晩の事が思い出された。
月の光のお陰で、昨日はウルドの美しい姿が良く見えた。
思い出して少し顔が緩む気配を感じて顔を引き締める。
「それにしても、何があったんだろう…」
気になるのは優しくも有無を言わさない口調だ。
彼が前にも厳しい口調で話したことはあったが、以前と今回では全く違うように思う。
荷物をまとめる必要も全く説明されていない中でも、ウルドの事を信用するAは一切の疑いを持たない。
吸血鬼でありながら、人間であるAを食料として見ないウルドに絶対的な信頼を置くようになっていた。
まだ日本にいた頃の話だが、吸血鬼は神に嫌われ呪われた生き物だと聞いた。
何度か実物の吸血鬼を見たこともあるが、その時見た物とウルドはあまりにもかけ離れている。
人間の安全のため鎖で手足と首を拘束された吸血鬼はまるで獣のようで、人間を一度見ると腹の奥底からうなり声を上げ片っ端から襲おうと暴れる。
理性的なウルドとはあまりにも違い過ぎた。
ゆるゆると荷造りをしていると唐突に轟音と共に家が、地面が揺れた。
とっさに身構える。
地震ではない。
何かもっと別のものだ。
窓の外を覗くが何ら変わった様子は見受けられない。
別の窓からは見えるだろうかと、窓を変えようとした時だった。
もう一度、轟音と揺れに襲われる。
今度は最初のものとは比べ物にならない揺れだ。それが二度、三度と続く。
得体の知れない恐怖に襲われ、衝動的にトランクを抱えてドアの外へ逃げてしまいたくなるが、ノブを回す前にウルドの言葉が思い起こされる。
____私が良いと言うまでここを出るな
ここを出てはダメだ。
再び轟音と共に揺れる。
雷が近くに落ちたかのように何かがバキバキと音を立てた。
一体ここで何が起きているのだろうか。
Aはトランクを抱えながら、止まらない震えに体を強く抱き締めた。
そして、一日も早くウルド駆けつけ、ここから連れ出してくれることを切に望んだ。
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れん(プロフ) - タコさん» ありがとうございます!頑張ります! (2020年5月25日 13時) (レス) id: 61b77cc65e (このIDを非表示/違反報告)
タコ - とっても面白いです。これからも頑張ってください! (2020年5月24日 16時) (レス) id: 805d2b00fb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こんぺいとー | 作成日時:2020年5月19日 23時