初めて ページ13
「よし、お疲れさま」
掃除用具入れに道具を片付けて、彼は大きく伸びをした。私は最後の机を運び終えると、彼の方へ駆け寄る。
「おう」
荷物は一旦置き去りにしたまま二人で教室を出て、水道で手を洗う。何気ないことだけど、こんな時間も好きだった。
濡れた手をハンカチで拭きながら自分の机の場所へ戻る。横のフックに掛けてあった鞄を持ってまたデンジくんの方へ向かった。
「これ……今日のお代、なんだけど」
お財布を取り出す。いつもより大きなサイズの硬貨を掴むと、デンジくんが差し出した手に握らせる。
「おー――って、は!? マジでこんな、いいのォ!?」
デンジくんは受け取った500円硬貨と私の顔を交互に見て、目をパチクリさせる。いつもは10円だから、50倍の500円なんて破格の報酬もいいところなんだろう。
「んで? いつも通りにしてりゃいいだけじゃねえよな、この額」
「う、うん……させてほしいことが、あって」
口ごもる私を見て、デンジくんは首を傾げる。鞄を置いて所在なさげに指を絡ませながら、私は言った。
「撫でて……いいかな?」
嫌なら全然、突っぱねてくれても構わないから――そんなことを伝えるために顔を上げると、目の前のデンジくんが今までに見たことない顔をしていて、虚をつかれてしまった。
今まで、へらへらしてるところとかぼんやりしてるところとか、そんなところばかり見ていたから。月曜日に初めて話して、好きな物のことはこんなふうに話すんだ、っていうのを知ったばっかりだったけど。
こうやって困惑して、でもどこか満更でもなさそうに頬を染めているのは、少なくとも初めて見る一面だった。
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めがね - とっても良い!!作品!!!です!!素敵な作品をありがとうございます。 (3月20日 0時) (レス) @page18 id: a861171d21 (このIDを非表示/違反報告)
awake - 好き (2月17日 21時) (レス) @page18 id: 8771cd27cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきいろ | 作成日時:2023年9月2日 11時