世界一不幸で、幸せ者な君へ＊2 (ページ4)

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慣れていたはずの道が、
通ったことのないような道に感じた。

もう平気だと思っていたのに、
躓くと何があるか、分からなくなって怖い。

俺はできるだけ道路の端を歩きながら、
左半分の景色を眺めた。

行き交うひとは皆、慌ただしく動いていて、
こんなとこでなにしてんだろ、って、
ふと我に帰る。

けれど人よりも劣っている俺は、
周りと同じことなんてできない。

街を歩くと、痛いほど自分の無力さを感じた。

「あっ」

信号が青に変わるのを待っていると、
右側から声が聞こえた。
前を向いている俺からは、姿が見えない。

「また会いましたね」

横を向くと、
ギターケースを抱えた細身の男性が立っていた。

さっき、バスの中で俺を支えた男だ。

男は屈託のない笑顔を見せると、
いきなり俺の手を握った。

「ちょっと...」

「こんな人混みじゃ、危ないでしょ」

信号が青に変わると、
男は俺の手を引いて歩き始めた。

男の足取りは確かで、
不安定に見えていた世界がたくましく感じた。

横断歩道を渡り、
人の流れが落ち着くと、
男は俺から手を離した。

「お兄さん、片目見えないみたいだしさ、
人混みとかもっと気を付けた方がいいよ」

男は俺の目を見ながらそういった。

初めてだった。
俺の片目が見えないことに気づいた人は。

男はふぅ、と息をつくと、
腕時計を見て、驚いたように口を開けた。

「やばっ...あ、それじゃまたいつか」

男はまた、目尻をくしゃっとさせて笑うと、
急いだ様子で小道を走っていった。

一体、アイツは何者なのだろうか。
心の隙が見えないあの男に、
俺の思考回路は乗っ取られてしまった。