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太陽は暑苦しい笑顔を見せるのに、
バス車内は太陽から隠れているのかと思うほど真っ暗だった。
後部座席、右の窓際の席が俺の特等席だ。
そこが一番、俺にとって状況を把握しやすかった。
昼間だと言うのに割に人がいて、
中には学生らしき見た目の乗客もいた。
バスは次の駅に向かって、
ゆっくりと舗装された道を走る。
俺に目的地はない。
人がいなくなったら適当に降りようと思っていた。
徐々に乗客は減っていき、
最後のバス停までの時点で、
俺を含めて二人しか乗っていなかった。
バスは最終地点まで数メートルで、
少しずつスピードを落として、
俺たちを降ろす準備を始めた。
やがて空気が抜けるような声を出して、
バスは白線ぴったりで止まった。
最後尾に座っていた俺は、
左側の座席に手を滑らせながら、
慎重に乗降口に向かう。
バスの通路は細い。
大人一人が通るのにやっとだ。
そんな場所で躓いたら危ない。
慎重に歩いていたつもりだが、
俺は右側にあった段差に気づかずに、
足をとられてしまった。
俺の体はスローモーションかのように前へ傾く。
人間は何故こういうときに、動きが遅く感じるのだろうか。
ゆっくりと時が流れ、
通路に手をつこうと手を開く。
だがその手は、通路につくことはなかった。
「大丈夫ですか?」
細身の体格とは反対に、
前方の席に座っていた乗客が俺の体を支えた。
通路側に座った彼のとなりには、
黒いギターケースが置かれていた。
「すみません。大丈夫です」
俺は彼の腕から体を離すと、
さっきよりも慎重に歩いた。
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青空と虹(プロフ) - はじめまして。作品、読ませていただきました。まだ途中ですが、とても素敵なお話が待っているんだろうな、とワクワクが止まりません。更新、楽しみに待っています! (2018年4月5日 8時) (レス) id: 3acfcf4b67 (このIDを非表示/違反報告)
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