世界の中心で君を叫ぶ 【木兎光太郎】

√１メートル ページ19

〜木兎side〜

「暑っちー」

手でパタパタと顔を煽ぎながらどっかりと座り込むと、「木兎くんはギブアップですかぁ」と聞きなれた声が言う。
先ほどまでネット越しにいがみ合っていたネコの長、黒尾である。


「お前暑くねえの〜？」

「暑いですよ〜」

「てか俺はまだ元気だ！」

そう勢いよく立ち上がった拍子に、手から滑り落ちたドリンクボトルが右足を直撃した。


痛い。


「ブヒャッ、頭いかれちゃいましたか木兎さん？」

「いかれてねえ！」

「いつも通りですね」

そう静かに言い放ったあかーし、ナイスフォローだ――

「ん？」

いや、今のはフォローだったか？
ボトルを拾い上げながら黙考。頭がいかれた？それに対して「いつも通り」⋯⋯、



「バカにしてんのかあかーし！」

「いえ」


今度こそ黒尾が腹を抱えだした。俺はその場に再びどっかりと腰を下ろして、ドリンクをグッと呷る。



それにしても、暑い。

いくら音駒との練習試合とはいえ、もう少し涼しい日にやりたいものだ。
そうすれば疲労がたまりにくいだろうから、試合数が増えて楽しいと思うのだが。


――そうはいっても夏は嫌いじゃない。
なんだかよく分からないがお祭り騒ぎしたくなるし(以前あかーしに言ったら「いつも騒いでるじゃないですか」と一蹴された)、実際お祭りがそこかしこで行われているし(あかーし曰く「そんなところに出向かなくてもあなたがお祭りです」これは褒めてるのだろうか？)、なによりセイシュン！！っていう感じがいい(これはAが絡んでくるせいかあかーしはツッコんでこなかった)。


そうだ、俺はセイシュンを謳歌しているのである。
唐突にその事実が足先から湧き上がってきて、俺はしゅたッと立ち上がる。


「お、木兎再起動」

「よし黒尾！次は1セットもやらねえ！」

「今日はこれで終わりですけどね」

「そこつっこまないであかーし！」


せっかく盛り上がってたのに！と喚くと「片づけましょう」と躱された。あいかわらずあかーしは冷たい。

やっぱり真夏でもいいから練習試合はたくさんやりたいな、と先ほどの考えを白紙に戻す。
そうだ、いくら何でも午前中で練習を切り上げるなんてそんなひどい話があるものか。





「ちょいちょいちょい木兎くん」

黒尾が肩をつついてくる。

「んー何？」

ニヤリと浮かんだ笑みに、少しだけ嫌な予感を覚える。

「アレ見えます？」

黒尾の指が指し示した先――、


体育館2階の、観戦スペース。




「――A？！」

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