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23話 ページ30

Aside





……ゆらゆらと暖かい何かに揺られる感覚を覚え、うっすらと目を開ける。



黒く大きなものに包まれて私の体がどこかへ運ばれているのだと、ぼんやりとした頭で理解した。



霞む視界の中、誰かが私の顔を覗き込む。
真っ直ぐに私を見つめ、微笑んでいるようにも見えた。



『………』


「……A」



聞き覚えのある低い声が私を呼んでいる。



さっき、屋上で出会った人かな…



自分が何者なのか分からないのに、その人に呼ばれただけで、何も無い私の心が少しずつ満たされている気がしてくるのだ。



ふと腕の辺りに違和感を感じ目線を移すと、上着のようなものが掛けられていて、私を抱えているこの人のものなのだろうと思った。



森の泉のような、優しい匂いがする。




「マレウス様、支度が整いました」


「ご苦労だったな」


「いえ。若奥様…お目覚めになられたのですか?」


「あぁ…もう少し、休ませておこう。
まずは“僕たち”と、この環境になれてもらわないと」



頭上で、数人の話し声が聞こえる。どれも男性の声だ。



光に慣れ、徐々にはっきりしてくる視界に飛び込んできたのは、豪華な家具やインテリアで整えられた部屋だった。



クラシック風の上品なダークウッド色で統一され、緑色の炎が淡く光を放っている。



眺めていたのも束の間、私は抱えられた身体をキングサイズの大きなベッドにそっと降ろされた。



その手つきは酷く優しく、割れ物を扱うかのようなおぼつかなさが目に付く。



しっかり意識が戻った私はベッドの上に座り、ローテーブルに備え置いてあった椅子を持ってこちらに来るその人をじっと見つめていた。



「若様、俺たちはこれで…」


「失礼します!」


「あぁ」



若様と呼ばれたその人が短く返事をすると、部屋の入口で待機していた男性ふたりが、こちらに向かって一礼し部屋を出て行った。



ドアの閉まる音が聞こえると同時に、椅子に座っていた男性が口を開く。



「急に知らない場所へ連れてこられて、混乱しているだろう。……すまない」


『…いえ』


「…僕はマレウス・ドラコニア、君の……」


『……?』



そこまで言うと、マレウスと名乗ったその人は押し黙る。何かを言いたげに、けれど言ってはいけないことなのか……。



数秒の沈黙の後、ほんの少し口角を上げてこちらを見る。



マレウス「君の、友人(・・)だ」



その目はどこか儚げで、うっすらと涙の膜を張っていた。

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Rin(プロフ) - 続きが楽しみです 更新頑張って下さい (2023年4月20日 2時) (レス) id: a3128229fd (このIDを非表示/違反報告)
出雲(元あやりん) - 若様ァァァ!若様と誓いしていたなんて。おっし若様、アタシと結婚しまs((若様好きすぎて暴走してしまった。すk(((殴。すいません面白いですし、好きです (2021年10月22日 21時) (レス) @page21 id: afcb507146 (このIDを非表示/違反報告)
三月アリス  - めっちゃ好きです!マレウス様かわいい! (2020年9月7日 10時) (レス) id: 742f423e47 (このIDを非表示/違反報告)
ユリ(プロフ) - 続き気になります。更新頑張ってください (2020年9月3日 17時) (レス) id: ba2a71100d (このIDを非表示/違反報告)
ベル(プロフ) - え?めっちゃ好きです!!更新楽しみに待ってます! (2020年8月20日 17時) (レス) id: 61644e4b7a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:毘張 | 作成日時:2020年7月30日 1時

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