青天の霹靂【 sh 】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:11 hit、合計:33,975 hit

Those days were illusions ページ9

．

次の日も、またその次の日も、紫耀くんは現れなかった。

あの一時は幻だったのか。

来る日も来る日もあの後ろ姿が脳裏を駆け巡る。あのとき、どうして追いかけなかったのか、どうして彼は１年のときから知っていると言ったのか、聞きたいことも何一つとして聞けずに歯切れの悪いまま、こんな終わり方、あんまりだ。

数ヶ月が経った頃、帰りの駅のホームで声を掛けられた。

「お姉さん！」
「……え、」
「覚えてないっすよね、俺のこと」
「……覚えてる、……コンタクトの、」
「それです！良かった！」

〈ジン〉くんだった。

雨の日に会って以来の再会だった。制服ではなく私服だった。前髪は下ろされて、ふわついた黒髪が少しだけ茶髪に染められていた。相変わらずの王子様っぷりに身が引き締まった。その節は失礼しました、と深々と頭を下げられて、どこまでも出来る男だと思った。名前は神宮寺勇太だって。どこぞの御曹司ですか。

というか、 " ジン " って名字だったのね。

「この前、卒業したんすよ」
「あー、そっか！おめでとう」
「紫耀にも言ってあげてください」
「え？」
「あいつ、急に遅刻してくるようになっちゃって、」
「……どうして、」
「言ったら殺されそうだからやめときます！」

白い歯を見せて笑う姿はまだまだ高校生だった。紫耀くんは元気にしてるのかな。そんなことも容易に聞けない私は俯くことしか出来なかった。

「でもまあかろうじて卒業はできたから良かったけど」
「そっか、」
「あ、そうだ、これ紫耀のバイト先の名刺」
「えっ、」
「気が向いたら行ってあげてください」

まさかすぎる展開だった。渡された名刺を受け取って、その足で向かった。駅から徒歩１０分。人気の少ない路地裏に行き着いた。小洒落たカフェだった。カランカランとベルが鳴り響く店内、お客さんが数人、奥から出てきたのは紫耀くんだった。

．