青天の霹靂【 sh 】 (ページ12)

今日:2 hit、昨日:11 hit、合計:33,976 hit

・ページ12

．

何度だって、忘れようとしたし、何度だって諦めようとした。ただの目の保養だと思い込んで、自分の気持ちは仕舞い込んで、蓋をして。だけど、気づけばずっと目で追ってて、いつだって紫耀くんを探してた。この数ヶ月、抜け殻状態だった。菜々美には「重症だね」と呆れられていたし。

「……紫耀くん、」
「なに？」
「好きって言ったら困る？」
「……困るわけねえじゃん」
「そっか」
「あと１０分で終わる、外危ないからそこで待ってて」

やはり有無は言わさず。本当に１０分だった。私服に着替えた紫耀くんが再び目の前に現れた。黒いジャケットに黒いスキニー。ジンくんもだけど私服だと急に大人びて見える。

「行こ」と言われ、レジに向かうと「もう払ってあるからいい」と言った。不意に感じる男らしさにはキュンとした。外へ出て、立ち止まる。

「さっきの続き、」
「……うん、」
「好き」
「……私も、」
「彼女になってください」

差し出された右手と、下げられた頭。変わらない旋毛が愛おしかった。

「よろしくお願いします」

向かい合って、右手を掴んだ。初めて触れた身体ごと、フワッと持ち上げられた。年甲斐もなく喜びに満ちた。同じ電車に乗って２人掛けの座席に座った。

「バイト先ジンくんが教えてくれたの」
「……あの野郎、」
「遅刻ばっかしてたの？」
「は、聞いたの？」
「詳しくは教えてくれなかった」

不満げに唇を尖らす紫耀くんの急に子供みたいになるところもまた魅力的だった。

「……時間ずらせば忘れられるかなって思って、」
「それで遅刻？車両変えれば良かったじゃん」
「だって違う車両で会ったことあんじゃん！」
「あぁ、そうだ、」
「つーか、なに！もう卒業したんだからいいよその話！」
「社会人になったら遅刻なんて許されないんだからね！」
「急に大人アピールすんなよ！」
「してないし！」
「あぁ、うざ！」

…………え、？

「ちょ、……バカ！」

不意打ちだった。なんの準備もしてなかった。何年振りかのキスに１８歳の恐ろしさを知る。全然ガキだ、バカ。大人を舐めるなよ、バカ。好きだ、バカ。

「ガキ扱いすんなバーカ」

憂鬱な朝の時間が紡いだ青天の霹靂、嘘のような本当の話。

fin

．