検索窓
今日:11 hit、昨日:3 hit、合計:160,291 hit

拾漆 ─── ページ18

……!

何処からかAの悲鳴が聞こえた気がして、太宰はソファから跳ね起きた。

「どうした、太宰」

国木田が心配そうに声を掛けるも、荒い息を整えるので精一杯だ。

やっと落ち着いて周囲を見ると、国木田と同じような視線を皆から送られていた。

……探偵社か。

家に帰る気も起きず、そのまま泊まることにしたのを忘れていた。

時計の針はもう昼前を指している。

「国木田君、Aは?」

「まだ何も情報が入ってこない。あとは、与謝野先生のほうの進捗だが」

「与謝野先生?何してるの?」

「或る事件の調べ直しさ」

太宰の問いに答えたのは、医務室から出てきた与謝野本人だった。

彼女は眠そうに目を擦りながら、両手に持った大量の紙束をバッサバッサと揺らす。

「これから社長に報告でね。話はそれからだよ」

じゃ、と社長室に消えていった与謝野を太宰は会釈で見送ると、毛布をはねのけ立ち上がった。

……私も嫌がってる場合ではないかな。

脳裏にいとも簡単に現れる元相棒の姿に苛つきを覚えながらも、電話番号を打つ手は淀みない。

暫く待ったものの、懐かしき帽子置場君は律儀に電話を取ってくれた。

「あ、中也。今いいかい?」

「あ!? 暇潰しなら御免だからな」

話は聞いてくれそうな雰囲気に、柄もなく感謝の言葉を言いそうになる。

「用だけ言ってくれ。此方も忙しいんだよ」

「忙しい? 何かあったのかい?」

なかなか用件に入らないことに舌打ちをして、しかし、中原は不機嫌にそれに答えた。

「広津さんが襲われてな。命に別状はないんだが、古株が襲撃されたとあって、首領もピリピリしてんだよ」

あと、と続けられた言葉は信じたくないものだった。

「どうやらもう一人、広津さんの知り合いが乗っていたらしくてな。そいつはその襲撃者に拐われたらしい」

目の前が真っ暗になった。

徐々に胸が苦しくなるような感じを得ながら、必死で言葉を紡ぐ。

「それ、その人、女の人じゃないかい?」

「あぁ。運転手はそう言ってたな」

……矢張そうだ。間違いない。

「……中也、その人、Aだよ。私達のAだよ」

息を呑む音が聞こえた。

直後、周りの部下たちにであろうか、矢継ぎ早に怒鳴りながら指示を出していく。

「太宰、感謝するぜ」

それだけ言うと、中原は電話を切った。

「感謝するのは私のほうだよ」

力が抜ける。

太宰はへなへなと探偵社の床に崩れ落ちた。

拾捌→←拾陸 ───



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (273 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
548人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

椿 - 頑張って下さい。 (7月14日 6時) (レス) @page21 id: 12b579857a (このIDを非表示/違反報告)
まかろん - 更新楽しみにしてます!頑張って下さい! (2021年4月17日 23時) (レス) id: 0d4f326c6a (このIDを非表示/違反報告)
*深音*(プロフ) - 更新待ってます! (2020年2月24日 10時) (レス) id: 3a5cebd5e2 (このIDを非表示/違反報告)
ロット - 抱きたい症候群とは、小説の名前ですか? (2018年5月19日 15時) (レス) id: a63c890358 (このIDを非表示/違反報告)
蓮華(プロフ) - 更新待ってます (2017年5月21日 19時) (レス) id: b4564d59b9 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:久田 螺々亜 | 作成日時:2016年4月29日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。