拾陸 ─── ページ17
───痛い。
頭の中はその言葉でいっぱいだった。
真っ暗な視界のなか、繰り返し繰り返し唱える。
いたい。
誰か早く助けて。
否、もういっそ解き放って。
この痛みから。
この生から。
痛い痛い痛い。
また頭の中をぐるぐると回り始める言葉達。
どうなっているの。
私は、なんなの。
「ああああああああああ!!!!!!!!!!」
焼けるような痛みに目が覚めた。
私の身体が激しく揺れて、鎖の音が煩く響く。
……ここは?
不規則に明滅する白熱電球に照らされたその部屋は、全面コンクリートの殺風景なものだった。
見覚えはある。
マフィア時代によく通っていた、拷問部屋や座敷牢に酷似している。
しかし、違う。
匂いはまだ、此方のほうが薄い。
ぬるり。
頬を伝う温かい液体に舌を伸ばすと、鉄臭い匂いが鼻腔に広がった。
……たぶん頭切ってる。
傷を自覚した途端に其処が痛み出すのは何故だろう。
ずきんずきんと鼓動に合わせてそこかしこが痛み出す。
「部屋の主は誰なのかしら」
挑発的に問いかけても、答えはない。
人が居るのはわかっているのだ。
だが、そいつはどうしてなのか警戒心が強く、息を殺して此方を伺っている。
「怖くておしゃべりも出来ないの?とんだ臆病者」
痛みは無視する。
……多分、というか確実に、此処は『青薔薇』のアジトであろう。
「随分と回りくどい手を使うのね。私だけが標的なら、初めから私だけを狙いなさいよ」
何を言っても反応がないのに疲れて、背もたれに身を預ける。
……何を言ったら、したら、行動してくれるのかしら。
「……青薔薇なの?」
問い詰めるというより、寂しげに放たれたその質問に、思わず姿を現していた。
いきなり出てきた自分に驚きもせず、ただ静かに椅子に座り続ける彼女は昔のように美しかった。
「貴方が青薔薇?」
真珠のような唇から零れる音色も変わらない。
「……俺を、覚えてない?」
Aは僅かに目を見開いたが、数瞬後には小さく首を振った。
……そうか。
じわじわと胸に悲嘆の色が広がる。
「それは、残念だ。まだ覚えていてくれたら助けられたのに」
「……貴方は『机上の黒猫』でしょ?どうして拐った私を助けるの」
「それが俺の望みであるからさ」
……だけど覚えてないなら早く去らないと。
"あの人"は邪魔が入るのを嫌う。
「また会えるといいな」
それだけ言うと、俺は踵を返した。
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椿 - 頑張って下さい。 (7月14日 6時) (レス) @page21 id: 12b579857a (このIDを非表示/違反報告)
まかろん - 更新楽しみにしてます!頑張って下さい! (2021年4月17日 23時) (レス) id: 0d4f326c6a (このIDを非表示/違反報告)
*深音*(プロフ) - 更新待ってます! (2020年2月24日 10時) (レス) id: 3a5cebd5e2 (このIDを非表示/違反報告)
ロット - 抱きたい症候群とは、小説の名前ですか? (2018年5月19日 15時) (レス) id: a63c890358 (このIDを非表示/違反報告)
蓮華(プロフ) - 更新待ってます (2017年5月21日 19時) (レス) id: b4564d59b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:久田 螺々亜 | 作成日時:2016年4月29日 12時