Toothbrush|42 ページ43
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バタバタと騒がしく駆ける廊下
勢い余って扉を開いた
『松田!!』
「...っ、は?A?__」
一時間程前に見送った筈の相手が息を切らせて帰宅したのだ。驚いていても無理は無い
「何?なんか忘れモン?」
__今日居なくなってしまうとは思えない普段通りの口調に、胸がキシリと痛む
...普段通り、は違うか。ここに居る事の方がおかしな事なのだから
寧ろ普段通りになるのはこれからで...
握り絞めていた72番の煙草を床に落とし、松田に勢いよく抱き着いた
「っ、A?」
困惑そうに、それでいて筋肉質の腕を背中に優しく回してきた彼に泣き出しそうな笑顔で見上げた
『もう、いいの。全部』
彼のシャツを握りすがった
『__私も松田と行く』
「...え?」
『...私も一緒に連れて行って』
もう何もいとわない。松田と一緒に居られるのなら全部捨てる覚悟だってある
__それなのに。松田はゆっくりと肩を離した
「駄目だ」
威厳ある声の割りに辛苦で歪めた表情。彼をそうさせてしまったのは私だ
「Aは俺だけのものじゃない。結婚なんて興味無いなんて言ってたけど、それこそ幸せな家庭を築く事だって出来るし、未来のためでもあるんだ」
『嫌よ、松田とじゃなきゃ叶わない__』
「目を覚ませ!!__俺はAと未来を歩む事は出来ないんだ。...お前だって分かってる筈だ__そうだろ?」
辛いのは、苦しいのは。重さを量るものじゃなくお互い同じで
...自分だってめちゃくちゃな事を言ってる自覚はあるのだ
だからこそ、現実を突きつけられ突き離されるのがどうしようもなく悔しかった
『...ばか』
ぽつりと溢したと同時に松田の頬を思いきりひっぱたいた
溢れ出る涙はどうしようもなく、幽霊の癖に触れられてしまう事が今は憎たらしい
しまったと申し訳なさそうに眉を下げた松田を置き去りにし、行く宛も無いまま家を飛び出した
**
降谷side
「...え?」
携帯のディスプレイを前に、警視庁内で立ち止まる
「降谷さん?どうかされました?」
そんな僕を心配する風見に顔を上げた
「風見、今日重要案件入って無かったよな?」
「今日は大丈夫です」
さりげなく僕の手から資料を奪った風見は深く頷く
「今日の事は自分にまかせて下さい」
「...すまない」
物分かりの良い部下に事情を察知され、その場を後にした
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ふぐひらめ(プロフ) - 自分の目が土偶のように腫れあがってしまいました。松田も西城ちゃんも悪くないんだよなぁ、でも報われねぇんだよなぁ…。もし余裕が出来ましたら、この二人の普通にイチャコラしてる話が読みたいです!生前の、になるのか別世界パロになるのかはお任せします。 (10月9日 11時) (レス) @page50 id: 63e1c883be (このIDを非表示/違反報告)
輪廻(プロフ) - 大変面白く、続きが気になってしまって一日で読破してしまいました…何処を探しても、こんなに泣いて考えさせられた小説はありません…!素晴らしい作品を、本当に有難う御座います! (9月30日 9時) (レス) @page50 id: 6cfce3c49c (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 何度見ても涙が止まらないです。本当に、なんで死んでしまったのでしょうかね (5月7日 14時) (レス) id: 86ac079c04 (このIDを非表示/違反報告)
kaki - こんばんは。何度も何度も読んでも涙が止まらないです、、涙が枯れるかと心配になるほど、出てきます。素敵なお話をありがとうございました。 (5月6日 23時) (レス) id: 9254c6c927 (このIDを非表示/違反報告)
ミートボール(プロフ) - こんばんは。初めて小説を読んで声が出るくらい泣きました。とても読み応えがあって、「何度でも読みたい」と思う物語でした、、!たくさん小説がある中でこの小説に出会えて本当に良かったと思いました。素敵な作品を描いてくださって本当にありがとうございました。 (2023年3月21日 0時) (レス) @page50 id: abe3749231 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リンドウ | 作成日時:2019年8月12日 2時