005 それはまるで ページ5
、
「やぁ、A」
「……ヒロト」
頭に被せていたタオルを取って
後ろから歩いてきた兄を見る。
にこりと笑みを浮かべる彼が
凄く、憎く感じてしまった。
「………私」
「ん？」
「お日さま園にきた一年後から
みんなと話す事もなくなったの。
どうしてか、分かる？」
私の問いに、兄は
首を横に振って、こてんと傾けた。
ぐっと拳を作って
怒りを抑えこみながら
震えた声で答えた。
「父さんに贔屓されてるんだろうって
勘違い、されてるんだよ。
思い込みで、嫌われてるんだ。
分かるよね、父さんが私を愛すなんて
思い込み、だって」
「……そうなのかい？」
初めて知ったよ、と言わんばかりに
目を丸くする兄。
耐えろ、私、ダメだ。
ここで飛び出したら、だめ。
「ヒロトは、贔屓されてる。愛されてる。
ヒロトの妹だから、私だって同じように
贔屓されてるって、愛されてるって、思われてる、」
何をどうしたって、きっと
私はヒロトになれない。
嫌、だった。
父さんが帰ってくる度
ヒロトが私の手を引いて走り出すのが。
そりゃ、ヒロトといれば
父さんとはいつも話せたけど
あのね、父さん、って声をかけても
ヒロトを優先することが多かった。
それと同時に、分かっていた。
ヒロトは、代わりだってこと。
父さんの死んだ息子が
ヒロトと瓜二つだったから。
だから、ヒロトの本当の名を捨て
この名前を授けた。
でも、それでも、
誰からも愛してもらえなかった私にとって
彼は、羨ましい存在だった。
私だって、父さんに頭を撫でてほしかった。
偉いね、って言われたかった。
もっと笑顔を向けてほしかった。
名前を呼んでほしかった。
みんなとだって、仲良くなりたかった。
あわよくば、一緒に遊びたかった。
笑い合って生きたかった。
でも、もう、遅いんだ。
「そんなことより、グラウンドに戻ってこいって
バーンが怒ってたよ」
「そん、な、こと、…… ？」
プツリ、と
糸がハサミで切られたかのように
私の中の、何かが切れた。
それはまるで
世に言う、堪忍袋の緒が切れた
というやつによく似ていた。
、
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遊星(プロフ) - 更新停止になってますが大丈夫ですか？素敵な話なのに更新停止は勿体無いです。早く続き読みたいです。 (2019年12月17日 22時) (
レス) id: cc3dcebb37 (このIDを非表示/違反報告)
氷雪の騎手 - 展開がすごく気になります！こういうお話好きです。更新頑張ってください!! (2018年3月14日 19時) (レス) id: 685ae2c80c (このIDを非表示/違反報告)
ヒガンバナ - この小説すごい好きです！話の続きが気になります！更新頑張ってください！応援してます！ (2018年1月27日 13時) (レス) id: 685ae2c80c (このIDを非表示/違反報告)
あふ(プロフ) - すごく先の展開が気になります！これからも更新頑張ってください！！ (2017年12月22日 21時) (レス) id: 320959b6af (このIDを非表示/違反報告)
はるはる - 更新頑張って下さい！ (2017年12月22日 12時) (レス) id: 676113aca5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せご | 作成日時：2017年12月16日 23時
