ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

●いつも通り ページ7

Aから『合宿に行く』と連絡が来たときは嬉しかった。
嫌なときは"NO"と言う人だから余計に。
合宿参加に乗り気であるということだ。
すぐに監督に連絡し、監督から『提出書類を持ってきてほしい』という旨をAに伝えた。

俺は、好きな人を合宿に誘うことを別に悪いとは思わなかった。
及川さんだって彼女さんを誘おうとしてたし(喧嘩中で叶わなかったらしい)、臨時マネ募集がかかった初期時点で、花巻さんや松川さんの彼女さんが来ることは確定していた。
要するに、真面目に仕事をしてくれる人なら誰でも可能ということ。
そりゃ、誰だって気になる人を誘うだろう。大半が失敗したけど。
下心を持たずに合宿に誘っていた一軍なんて、渡さんと金田一くらいだ。

だから、Aとバスが別だったことは少し残念だった。
点呼前に挨拶はしたし、そこまで気にしてはいない。
サービスエリアまでは寝て過ごし、バスに戻ってからは適当にスマホを弄った。
福島の名産品だとか地理だとか。
出発前、ふと隣のバスを見るとAがいた。
こっち見ないかな、なんて期待したが、Aの視線は本に向けられたままだった。
『バレーボール入門書』を読み耽る姿を見て、やっぱり真面目なんだよなと思った。

練習や試合はいつも通り動いた。
効率よく燃費よく冷静に。
1試合後、及川さんに「今日はいつも通りなんだね？」なんて言われた。
Aがいるのに、と暗に含まれていた。
別に俺はあいつの為にバレーやっているわけじゃないし、良くも悪くもペースを乱すのは嫌なのだ。
数か月前の自身の未熟さは反省したし、克服した。
誰がいようと、俺は俺のプレーをするだけだ。
そう伝えると、及川さんは満足げに俺の肩を叩いた。
俺の心境は、密かに尊敬する先輩に褒められた嬉しさと戸惑いで半々だった。

休憩中、Aの働きぶりを窺った。
真面目で丁寧で、人選は間違っていないと思った。
それとは別に、ちょっとだけ二軍が羨ましかった。


・


昼食になり、目の前には大量のおにぎりと野菜炒めが机を埋め尽くす。
一斉に男たちが料理に殺到し、俺は空いたのを見計らって取りに行く。
おにぎりはマネが作ったらしい。
できればAが握ったやつを食べたいが、流石に本人に聞くのは気持ち悪い。
残った中で、綺麗な三角形を数個選んだ。
空きっ腹だったからすごく美味く感じる。

「おつかれさま！」

「Aもおつかれ」

飲み込んでから応答する。
右隣にAが座って、いつもと同じだ。

○合宿1日目終了→←○決めごと

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