ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

○決めごと ページ6

炊いたご飯に具材を入れて三角形に握る。
こんなに大量の米を握るのは初めてだ。
私たちマネージャーがおにぎりを作っている横で、合宿所のおばさんたちは同じく大量の野菜やベーコンを炒めていた。
しかし、圧倒的スピードで瞬く間に美味しそうな野菜炒めを作り上げていく。
ベテランの風格を感じた。


・


おにぎりは大好評だった。
昼休憩に入ると瞬く間になくなった。
親友と顔を見合わせ、良かったねと安堵する。
野菜炒めも同様だ。
男子高校生の食欲は侮れない。
なくなる前に確保しておいて良かった。
部員に一足遅れて舌鼓を打った。

「Aは国見くんに話しかけないの？」

「そっちこそ」

おにぎりを飲み込んでから応答する。

合宿に参加すると決めてから、私たちは"必要以上に想い人と話さない"ことを決めた。
なぜなら、去年の臨時マネージャーの件があるからだ。
及川先輩目当ての人が殺到して、あまり仕事をしてくれなかったこと。
私たちはというと、参加するからには誰にでも平等に接し、真面目に仕事をすると決めている。
しかし、全く下心がないと言えば嘘なのだ。
「頼られて嬉しかったし、力になって好感度を上げたかった」。
「バレーする姿を間近で見たかった」。
「夏休み一緒にいられるチャンスなのでは」。
下心を持って参加した、なんて周囲に勘付かれたら最悪だ。
誘ってくれた人の印象も下げるし、信頼を裏切ることになる。
だから彼とは話さない。

「やあ、1年臨時マネさんたち！主将の及川徹です」

今回の合宿参加ありがとう、と及川先輩は礼を述べた。
なるほど、主将だから臨時マネに挨拶して回っているんだな。
すぐに去ると思った及川先輩は足を止めたままだ。

「君たちは選手ともっと親睦を深めないの？特に君たちを合宿に誘ってきた奴らとか」

私たちの心を見透かしたかのような発言だ。
もしかして新手の脅迫？
怖くて親友と肩を寄せた。

「大丈夫だよ！怯えないで！……君たちが真面目に仕事をしているのは知ってる。だからさ、休憩くらいは仲のいい奴と話したら？知らない奴らと話してばっかじゃ疲れるでしょ？」

「でも……」

「それに！臨時マネの3年生はうちの部員の彼女なんだよ。あの2人だって仕事は真面目にやっていて、今は彼氏と話してるよ。君たちも来たからには楽しんでね！」

言うだけ言って及川先輩は去って行った。
暫く親友と茫然と立ち尽くし、

「及川先輩って怖いね」

「それな」

及川先輩の恐ろしさを実感した。

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