ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

○呼び方 ページ40

不思議だ。
不毛な話し合いだったし、面倒だと思ったことだろう。
それについては申し訳ない。私も途中から意地を張ってしまったのだ。
しかしここまで不毛な会話が続けば、この人のことだから、面倒がって折れてくれると思ったのだけど。
思いの外、最後まで話し合ってくれた。
私は頑固だけど、彼もまた主張を曲げなかった。
結局、説得されてしまったのは悔しい。
元々私の我儘だし、告白が成立したら付き合うのは当然だから、仕方ないのだけど。
今更だが、私の好きな人も相当負けず嫌いのようだ。

ウーロン茶で喉を潤していると、頼んだフレンチトーストが運ばれてきた。
早速、出来立てのそれにナイフとフォークを突き立てる。
一口サイズに切り分けて、期待を膨らませて口に運んだ。
サクッとした小気味いい食感から、ふわふわの生地に辿り着く。
熱々のトーストと、バニラアイスの冷たさがまた美味しさを引き立たせる。
十分に咀嚼して、飲み込んだ。

「これすごく美味しい！外はカリッとしてて、中ふわとろなの！それから温かいトーストとアイスのマリアージュが最っ高！」

「良かったね。ちなみに一番好きな部分は？」

「パンの耳！一番香ばしくて美味しい！ふわふわもいいけど、このサクサクがやみつき！」

「歪みねぇな」

ふ、と笑う好きな人に、思わずときめいてしまった。
この人が今日から恋人だなんて、感慨深い。
照れ隠しと、美味しいものを分け合いたい気持ちで、トーストを次々と切り分けた。
どうぞ、と言い出そうとしたが、一旦やめる。
そういえば付き合うことにしたのだから、呼び方は変えた方がいいのでは。

「英も良ければ食べない？美味しいよ」

「えっ」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされた。

「何で名前……」

「付き合っているのだから、名前を呼ぶくらい普通では？」

「いや、まぁ、そうなんだけど」

あれ、意外と名前呼びに動揺している？
ちょっと面白い。

「いきなり呼ばれてびっくりした。名前で呼んでいいか断ってからくるかと」

「断った方が良かった？」

「別に。あと、くん付けじゃないんだ？」

「くん付けが良かった？恋人だし、英も私のこと呼び捨てにするからいいかなと」

「どっちでもいいけど、スイッチの切り替え早くない？さっきまで付き合いたくないと駄々こねてた人かよ」

「ごめん」

「いいけどさ。……で、そのトーストくれるの、A？」

「勿論！美味しいよ！」

英にトーストを差し出して、美味しさを分け合った。

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