ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

●説得 ページ39

Aがデザートの注文を頼み、話し合いを再開する。
Aは多分、過去に囚われたまま付き合うのは不誠実、とか考えているのだろうけど、真面目が過ぎるのではないかと思う。
母さんが見ていた恋愛ドラマの「元カレのことが忘れられないから、貴方とは付き合えない」というワンシーンに似ている。
たとえAが元カレに未練があったとしても、俺は気にしないのだけど。

「申し訳ないけど、話し合っても"付き合えば良くない？"以外の結論が出ない」

「それでは駄目だよ。付き合ったら、こう……恋人っぽいことしたいじゃないですか」

「しても良くない？」

「そういうことしたい気持ちよりも、過去に囚われたまま国見くんに触れたくない気持ちの方が大きいので。好きな人に触れている時に、嫌なこと思い出したくない」

「難儀だな。付き合っても、克服するまではそういうことしなければいい話じゃない？」

「付き合っているのに、恋人みたいなことできないの辛い。国見くんはどう？そんなことない？」

ここでそういう切り返しが来るのか。
俺も健全な男子高校生なので、好きな人とスキンシップくらいは普通にしたい。
手繋いだりとか、抱きしめたりとか。
でも、それを素直に伝えるのも面白くない。

「俺は別に」

「えっ。じゃあ私だけ？好きな人に触れたいと思うの私だけなの？……恥ずかし」

Aは赤面させて、テーブルに伏してしまった。
結構いい反応。
不毛で面倒な議論だと思っていたけど、一周回って面白くなってきた。
このまま付き合う方向に話持っていけそう。

「Aは真面目だから、どうせ付き合っても克服するまではスキンシップしないだろ？付き合うのも付き合わないのも変わらない。それなら、一歩関係を踏み出してもいいのでは？」

「それは……確かに。もし国見くんが私と同じようにスキンシップしたい人だったら、付き合うのに触れ合えないの、互いに辛いと思ったんだけど。でも、国見くん辛くないもんなぁ」

テーブルに伏したまま、何やらブツブツと呟いている。
いや、俺も意地張っただけで、辛いには辛いです。
しかし、Aが付き合う方向にシフトしていくのは見て取れる。
これは勝ったな。

「元々私の我儘だし、分かった。付き合おう。ただし、克服するまではスキンシップ絶対しないし、させないでね！それから、決着したら改めて告白させて！」

「すごい悔しそう」

この話し合いは一体何だったのか。
謎だが、意外と面白かったので良しとする。

○呼び方→←●不毛な話し合い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す