ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

●光明 ページ36

見覚えのある車の窓を叩き、ドアを開けてもらう。

「おかえり」

「ただいま」

数十分前にこれから帰る旨を連絡したら、母さんから迎えに行くと返信が来た。
下駄で帰るのは辛いので、有難く母さんの厚意に甘えることにしたのだ。

正直、浴衣と下駄で歩き回る疲労感を舐めていた。
浴衣を着たのは幼少期以来な気がする。覚えていないのは無理もない。
しかし、疲労感は凄まじいが、浴衣を着たのは正解だった。
同じ服装にしたことで、Aは俺に気を遣わずに楽しんでくれたみたいだから。
まぁ、Aが浴衣を着る確信なんてなかったけれど。
もう容易に浴衣を期待するのはやめよう。
こんなに疲れる服に慣れたAは凄いな。

「迎えありがと」

「いいよ〜。どうだった？」

「賑わってた。人混み疲れる」

「そうじゃなくて！デートだったんでしょ？どうだった？」

ああ、やっぱり気づいてる。
ここ何年も着てない浴衣を着たがったから、不審に思ったのだろう。
仔細は聞かずに父さんの浴衣を出してくれたし、着付けまでしてくれたけど。

「さあね」

肯定したら、あれこれ聞かれるのは目に見えている。
曖昧に答え、目を閉じた。

「家に着いたら、そのまま寝ないでね」

その言葉を聞き入れて、今日のことを思い返す。

浴衣のAが可愛くて綺麗だったこと。
食べ物に釣られて笑顔になったのが、チョロくて可愛かったこと。
控えめなネイルをしていて、細部まで綺麗だったこと。
炎色反応と短歌と告白の理想の話。
からかうと脅しで返してきたこと。
あと、それから＿＿＿＿

『し、死んでしまいそうだからそうするね！』

あれは多分、脈アリなんだろうな。
気まぐれに一つ、何か風情のあることを言ってやろうと口に出した言葉だ。
何も思いつかなくて二番煎じになったが、まさか返しがあるなんて。
"月が綺麗"に対して、"死んでもいいわ"は定番中の定番だ。
Aが言ったのは"死んでしまいそう"だが、多分意味は変わらない。
Aの慌てぶりと真っ赤な顔がそれを裏付ける。
俺とAは両想い。

マジか。
あわよくば、脈アリかどうか分かればいいとは思っていたけど。
いざ分かると色んな感情が溢れ出して、ちょっと処理が追い付かない。
告白のつもりで言ったわけではないが、あれ実質告白では。
付き合うってことでいいのだろうか。
曖昧さ故に分からない。

まぁ、いいか。次会った時に直接言えば。
夏休みも残すところ数日。
新学期になれば、また毎日のように会える。

○告白→←○死にたくないけど、死んでもいいわ

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