ノート1冊につき、塩キャラメル1粒〜夏休み〜【国見英】

●予約 ページ21

Aを見送り、振っていた手を下ろす。
荷物を持って先輩たちに挨拶をし、俺たちも漸く帰宅だ。

「Aさんとは上手くいったか？」

「まぁ、普段通りだった。楽しかったよ」

「良かったな！」

金田一は人がいい。
他人に良いことがあると、まるで自分のことのように喜んでくれたりする。
今だってそうだ。
それから面倒見もいいし、優しいし、すごくいい奴だと思う。
けど、なぜかモテない。
全くモテないわけではないが、コイツは未だに告白された経験がない。
金田一を好きだという女子は中学の時もいたけど、どうにも大人しくて消極的な子ばかりに好かれるのだ。
おかげでコイツは「モテない」と嘆くし、そのくせ他人からの好意には鈍感である。
残念な奴だ。

「金田一はあの人にお礼とかしないの？」

「？ したけど」

「いや、もっとこう即物的なやつ」

「え、した方がいいか？」

「さあ？」

「分かんないのかよ！」

「聞いてみただけ。俺はAに何かお礼でもしようと思ってるからさ」

お礼は口実で、ただ会いたいだけだけど。
スマホを見つめ、部活のスケジュールを確認する。
休みなのは明日とお盆の数日くらいだ。
明日は流石に休みたい。
お盆なら祭もあるし、屋台で奢れるから丁度いいな。
しかし、仮に約束を取り付けたとして、お盆までAには会えない。
夏休み、憎い。

「なるほど……。でも、お礼って何すればいいんだ？」

「知るかよ。自分で考えれば？」

「冷たっ」

どうせお前が考えたお礼なら、親友さんは何でも喜ぶだろ。多分。
アプリを開き、Aに合宿のお礼と祭に一緒に行かないかという旨を送信した。
これ、断られたら3日はへこむ。
スマホをポケットにしまい、金田一の話に耳を貸す。

「何かヒントとかないか？」

「お礼するの？」

「喜んでもらえるならしたいが……全然分からん！」

「お菓子をあげるとか、ご飯に誘うとかでいいんじゃない？」

「なるほど」

まぁ、コイツが女子をご飯に誘うとかないと思うけど、お菓子くらいなら渡せるんじゃないか。
「喜んでくれるならお礼したい」なんて、相変わらず真っ直ぐだ。
友達として、いつか騙されないか心配になる。



・



自宅の扉を開けると、どっと疲れがやって来た。
両親に力なくただいまと言い、リビングのソファにダイブする。
あー、楽。

スマホから着信音がなり、アプリごと解錠する。

『お盆空いてるよ。お祭楽しみ！』

Aからの返信で眠気はどこかへ消えた。

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