あの子との遭遇 ページ19
あの告白劇から数日、まるであの時のことなどなかったかのように時間が過ぎていった。
相変わらず二人で何でもないようなことを話し、体内を循環して酸素を運んでいく。
変わったことといえば、Aが4989番を意識したせいか仕草や表情が妙に目についたり、触れることに恥ずかしさを覚えるようになったくらいだろうか。
それでも仕事に支障が出るほどのものでもなく、今日も二酸化炭素を受け取って肺を目指していたのだが…。
突然4989番のレセプターが反応した。
それから間を置かず、前方から赤血球たちが走ってくる。
「うわーっ！細菌だ！」
「みんな逃げてー！」
叫び声にはじかれるように周りの赤血球たちが向きを変えて走り出す。
「Aちゃん！俺行くから逃げといて！」
「うん！4989さんも気を付けて！」
あの細菌に襲われた一件以降もたびたびあったやり取りをして、Aも来た道を引き返す。
背後ではナイフを抜く音と同時にあがった4989番の雄たけびが遠ざかっていった。
「細菌はどこだ！ぶっ殺す！」
―――――――――――――――
逃げる赤血球たちの流れに乗ってAも走る。
背後では叫び声や細菌のものと思われる声が聞こえていて、正直生きた心地がしない。
それでも、今の時点ではさほどの危機は感じていなかった。
どうやら追いかける方にとっては集団でいられると狙いがつけにくくなるらしく、こうして集団の中にいればまず狙われることはない。
要は遅れたり別の血管に逃げ込もうとしたりして集団から突出しない限りは、ある程度安全ということだ。
こうしているうちに時間がたてば、免疫細胞たちが駆けつけて細菌を駆除してくれるだろう。
何度かあった細菌との遭遇で得られた逃走術を頭の中で思いだしていた時だ。
「わーっ！」
突然隣を走っていた女性の赤血球が転んだ。
思わず足を止めてしまう。
痛がる赤血球と、迫ってくる細菌を交互に見て一瞬迷った。
このまま彼女を見捨てて走るのが賢い方法だというのはわかっている。
助けようとしたところで戦う力のない自分では揃って殺される危険の方が高い。
それでも…。
Aの脳裏には、自分を背に庇って細菌の前に立つ4989番の姿が思い起こされていた。
(戦う力がなくても、私にだって…！)
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リコピン@とまと(プロフ) - 志保さん» コメントありがとうございます。エピローグで締めた後は、番外集というか短編集みたいなのをできればなあと思ってます。できればそちらの方もよろしくお願いします。 (2018年11月6日 22時) (
レス) id: 6d907760cd (このIDを非表示/違反報告)
志保(プロフ) - 続きますよね？ (2018年11月6日 21時) (レス) id: 512d7a3c2b (このIDを非表示/違反報告)
リコピン@とまと(プロフ) - みかんパフェさん» コメントありがとうございます！面白いと言ってもらえて嬉しいです！お仕置きの時間だぜずっと入れたかったのですが、結局最後の方になりましたｗ (2018年11月6日 20時) (レス) id: 6d907760cd (このIDを非表示/違反報告)
みかんパフェ(プロフ) - こんにちはー！コメント欄失礼します！コメントしたいなーと思いつつ勇気が出ませんでした←すっごく面白いですっっ！！これが文才の差か…と思い知らされる作品でした。4989番のお仕置きの時間だぜが大好きなのでラストに出て来た時は嬉しかったですw (2018年11月6日 19時) (レス) id: e04ebc82bf (このIDを非表示/違反報告)
リコピン@とまと(プロフ) - 空さん» ありがとうございます！物語も佳境ですが、あともう少しあるので最後までお付き合いください！ (2018年11月4日 23時) (レス) id: 6d907760cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リコピン@とまと | 作成日時：2018年10月16日 19時
