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綸榭は表情の固いAを見て、人を殺した話を聞きたくなかったのだと思い話題を変える。
「あーごめん、アタシばっか話しちゃったね。Aはなんで夜兎の彼らと一緒に行動してるの? 特にあの神威って男、ヤバい匂いがプンプンする。アタシ以上に殺しへの躊躇いがないよ、ああいう男は」
「えっと……成り行き、かな」
綸榭からの神威への評価を聞いてホッとしているAがいる。普通なら怖がるところなのだが。先の発言で綸榭が神威を好意的に見ていないことが伺える。そこにホッとしていた。
そして、そんな自分に呆れてしまう。
Aはこれまでのことをかいつまんで綸榭に説明した。
「へーえ。脅しとかじゃなくて、そーゆう感じなんだ。あの男もちょっとはイカしてんだね」
綸榭の中での株が上がってしまったようだ。しかしAは自分の中に募る不安を認めたくはない。
「でも好戦的で放っておいたら戦うために変なことに首突っ込んでそうだよ。いつも阿伏兎が苦労してる」
「あー、そんな雰囲気持ってるよねぇ。でもAを見る時だけは──」
綸榭の言葉は途中で途切れた。
店内で騒ぎが起きたのだ。
「この店、幽霊がいる! ここの客を呪おうとしてる! 今ここに影が見えた!」
顔面蒼白でそう騒ぐ女の客がいた。震えていて、本当に見たかのように怯えている。
その気迫に当てられ不安そうに怖がる者、幽霊なんて居ないだろと主張する者、各々が口々に騒ぎ立て始め、女が指差す位置に意識を向けている。
「A、どう思う?」
綸榭が尋ねてきた。Aは店内を見回して客の動きを見ながら答える。
「例えば、あれは陽動で、混乱に乗じて盗みや食い逃げをするために注目を集めてる可能性もあるよね。──あぁ、あの席の男、視線の向きが一人だけ違う。近くの席の鞄を見てるね。財布を盗るのかも」
「アタシは幽霊がいると思うかって聞こうかと思ったんだけど、さらにその先を行ってたね。そんだけ頭が切れるなら、あのヤバそうな男とも渡り合って来れたのは納得だ」
感心したように言いながら、綸榭は席を立った。犯行を止めるつもりなのだろう。
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2024年3月25日 21時