【神威】第七師団団長の秘書様［4］ (ページ7)

今日:12 hit、昨日:79 hit、合計:4,664 hit

29-2 ページ7

　それに、Aは綸榭に対して一人で気まずさを抱えていた。

　夜兎だから、神威と同じだから、強いから、羨ましかった。
　神威の横に並ぶことができる対等なスペックが羨ましかった。

　しかし、これはAが一人で勝手に引け目を感じているだけである。
　綸榭は何もしていないし、何も悪くない。そもそも昨日会ったばかりで神威とどうこうなるなんてことはないだろう。

　それ以前に、Aは神威と深い仲になるつもりはない。というか、なれない。なりたいと思ったとしても。だって違いすぎるから。
　だから、綸榭と神威がどうなろうとAには関係のないことなのだ。

　それでも感情の部分が綸榭を意識してしまうから、Aは一人で勝手に気まずさを感じてしまっている。

　何も知らない綸榭はフレンドリーにAを誘う。

「仕事したらお腹すいたー。よければ一緒に朝メシどう？仕事でお金入ったとこだし、アタシが奢るよ」

　そう言われるとAも断るのが不自然に感じて、流されるままに近くの軽食屋に入った。

「今日の仕事はね、若い女性社員の依頼で、脅迫してきたセクハラ上司を始末してきたんよー」

　サラダにかかったドレッシングが混ざるようフォークを動かしながら綸榭は会話を始めた。過激版スカッと話のようなお仕事である。

「でね、そこのセクハラ上司がさ、依頼者の女の子に最低な脅しをしてたらしくて──」

　綸榭の話に貼り付けた笑みで相槌を打つA。笑顔が引き攣っていないだろうか。ちゃんと普通のトーンで話せているだろうか。
　一方的にモヤモヤした感情を抱いているなんて、誰にも知られたくなくて必死に表情を取り繕う。

　美味しいはずの朝食の味が分からない。舌先の感覚から〝人が美味しいと感じる味〟だという信号情報は伝わってくるが、味わうという行為に脳のリソースを割けるほどの余裕が無い。