29.秘書様は名探偵 ページ6
翌朝、Aは朝早くに目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む
宇宙で活動するAにとって日光は貴重である。少しでも日に当たるために、太陽と共に活動を始めたい。
地球で暮らしていた頃は昼まで寝ていたい寝坊助だったが、それが何たる贅沢なことかと今さら気づいた。
カーテンを開けて、部屋の中に光を呼び込む。一気に明るくなった部屋で彼女は身支度を整える。昨日買った服を着たら、完了だ。
──綸榭に教えてもらった朝市に行ってみよ。
滞在中のビジネスホテルからそう遠くない場所で朝市が開催されている。新鮮な食材から朝ごはんに最適な軽食やおやつまで、美味しいモノが安価で手に入るらしい。
Aはロビーに下りた後フロントにカードキーを預けた。ついでに各々別室で寝ている神威と阿伏兎への伝言をフロントマンに依頼しておく。
ホテルを出て、朝市に向かって歩き出す。
まだ低い位置にある太陽はそびえ立つビルを黄金に染めていた。
朝の街は通勤や通学の人で賑わっている。改めてこの星の人口の多さが伺えた。
歩くこと十数分、Aは朝市を開いている商店街に到着した。
──商店街の周りはさらに人が多いね。
道の両端では軒下に商品を並べて売り子が声を張り上げて客を呼び込んでいる。
生魚の匂いを通り過ぎると、揚げ物の香りが漂ってきた。肉屋のコロッケが安く売られている。朝ごはん用に帰りに買おうと頭にメモして、他に何があるのかと先へ進む。
今度は焼きたてのパンの香りに釣られて自然と足がそこへ向かう。ふっくらと焼き上げられたパンが並べられており、Aはヨダレが出そうになる。
これも朝ごはんに買おう、と考えていると後ろから声をかけられた。振り向くと
「A、オハヨー。朝早いんだね」
「おはよう。綸榭も早いんだね」
「アタシは仕事帰り。朝って皆自分のことに精一杯だから、違和感はスルーして急ぐでしょ。アタシの仕事には丁度いい時間なんよ」
「そ、そう……」
つまり綸榭は殺ってきた後だということだ。物騒な朝帰りへの正しいコメントが分からなくて無難な相槌しか打てない。
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作者名：夢宵桜 | 作者ホームページ：https://lit.link/dreamfairy
作成日時：2024年3月25日 21時
