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住所が示す場所に着くと、二人は唖然とした。目の前にあるのは廃墟同然の古ぼけたビルである。
「ホントにここなの?」
「依頼者が嘘を教えたんかな。電話も繋がらなかったし」
「とりあえず、入ってみよう」
念の為、音を立てないよう慎重に進む。階段を上ると、奥の部屋から灯りが漏れている。人がいるということだ。二人はそっと部屋に近寄る。
声が聞こえるギリギリの場所まで近づき、耳をそばだてた。指示をする低い女の声と、それに答える男達の声が聞こえる。
「──いいかお前ら、夜兎同士が戦って消耗したところを捕獲するぞ。二人いっぺんに捕まえられたらいいが、欲張るなよ。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ」
「わかりましたボス! ところで、夜兎を捕まえて何の役に立つんですか?」
「知らん。上層部の意向だ。研究の
「ああ奴ら、夜兎の強さを再現する研究をするとか言ってました!」
「春雨の構成員を殺させたのが我々だと勘づかれたらこっちが狙われて面倒になる。気をつけて行動しろよ」
「ボス、アイツを殺させて良かったんすか? 俺らのスパイとして春雨に送り込んでたんだろ?」
「スパイってのはな、あっちに正体がバレる前に始末しておくモンだよ。この星にいる第七師団の団長を焚きつけるために春雨の上層部を上手いこと誘導したようだし、これ以上踏み込んでスパイ行為がバレるくらいならここいらで用済みにしとくのがいいのさ」
そこまで聞いて、Aは概要を理解した。綸榭は春雨から狙われるように仕向けられたのだ。そして、神威と戦わせてどちらかが戦闘不能になったタイミングを狙って回収することが目的だったのだ。夜兎の強さを手に入れるための研究素材として。
そして、綸榭が殺した春雨の構成員というのは彼らのスパイだった。神威を綸榭と戦わせるために内側で動いていた。全てはここで話している奴らが仕組んだことだったのだ。
「綸榭、ここを出よう」
「あのボスって呼ばれてる女の人……アタシの依頼者だ」
「なるほど、全部繋がった。情報は得たし、見つかる前に出よう」
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2024年3月25日 21時