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「アンタだってそうだろ。だから眠らせようとした。それもわざわざ薬なんか使って。見られたくなかったんだろ、姐さんの友達を殺すところを。怖かったんだろ、知られて軽蔑されるのが」
「上の奴らの秘書としてAを俺達から引き抜かれるか、春雨の重要な情報源を殺した綸榭を暗殺するか、上から言われた俺の選択肢はこの二つだった」
神威は傘を構えなかった。阿伏兎の発言に嫌そうな顔をしながら語り始める。
「春雨の他の構成員達の間でAの存在が噂になり始めてる。綸榭が殺した春雨の諜報員は、この星で俺達を見かけてAのことをベラベラと上に話したみたいだ。そしたら傍迷惑にも上の奴らはうちの見目麗しく有能な秘書に興味を持ったらしい」
それで、神威に課せられた選択肢はAを上に渡すか、綸榭を殺すかの二択だった。
神威は綸榭に恨みはない。むしろ、余計なことを上に吹き込んでくれた奴の口を封じてくれたことは喜ばしい。しかし、Aがかかっているのなら話は別だ。どちらを選ぶかなんて明白である。
「ったく、そういうのは俺にも教えろってんだ、すっとこどっこい」
「阿伏兎は同族殺しを嫌がって一緒にいたら面倒臭いだろ? そんな奴の横で仕事するくらいなら、一人の方が快適に決まってる」
「…………」
阿伏兎は押し黙った。そりゃ言わなかったのも納得できてしまう。
「来ちゃったものは仕方がない。阿伏兎も行くよ。団員にも招集をかけて、Aを見つけたら保護するように指示しといて。──ああそれと、Aの引き抜きの話は内密でね」
最後によい笑顔で阿伏兎は脅された。
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神威達を撒いた二人はビルの陰で休憩している。綸榭は息が上がっていた。神威との戦闘はさすがにキツかった。その後もAを抱えながら全速力で逃げたので、体力の消耗が激しかった。
「大丈夫? ごめんね、私の足が遅くて」
「ううん、あそこにAが来てくれなかったら、あのままアタシが殺されてただろうから。ありがとう。Aこそ大丈夫なの? あの男に楯突くなんて」
「大丈夫だよ」
Aは笑顔で嘘を吐いた。本当は大丈夫だなんて思っていない。次会ったら命は無いだろうと思っている。
その嘘を見抜いている綸榭は友に申し訳ない気持ちになった。
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2024年3月25日 21時