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ドアの開閉音がして神威の足音が聞こえなくなった頃、Aはがばりと勢いよくベッドから起き上がった。神威を騙すための狸寝入りだ。先にあっちが騙したのだから、こっちだって騙してやる。
走って洗面所まで行き、すぐに口を
「ふぅ」
Aは水を吐き出した体勢のまま洗面台に両手をつく。
漠然とした違和感は、神威が水を入れるところから感じていた。ペットボトルの水をグラスに注ぐだけなのに、後ろから見ても手数が多かった。
グラスの中身を口に含んだ瞬間、違和感は確信に変わった。
──睡眠薬だ。
Aは
薬の混入に気づいた彼女は、口に含んだ後バスタオルに染み込ませて吐き捨てた。タオルが厚いおかげで水を吸っても判りにくいし、シャワー上がりだから湿っているのは当然のこと。だからバレないと踏んでバスタオルを使った。
水を選んだ神威の詰めの甘さが幸いした。コーヒーなら淹れる手間が多いし、味も元々の苦味に紛れて気づかなかったかもしれない。気づいたとしても、白いバスタオルに吐き捨てるのは難しかっただろう。
──なんで。なんで……裏切ったの?
神威が自分に薬を盛るなんて。
この「なんで」という疑問は、神威に対してだけではない。自分に対しても思っている。
──なんで、私はアイツを信用した? そうだ、神威は宇宙海賊の団長やってるような悪党。何が『信頼関係があるから契約書はいらない』だよ。悪党に信用なんてあるワケないじゃん!
悪党は悪党だ。神威が裏切ったんじゃない。Aが一人で勝手に信用しただけだ。
作者の呟き
お気づきでしょうか。
地の文では「飲んだ」とも「寝た」とも書いていないんです。
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作者名:夢宵桜 | 作者ホームページ:https://lit.link/dreamfairy
作成日時:2024年3月25日 21時