6mm.

〇. ページ48

.






卓が3歩、先を行く。

少し離れると彼は必ず立ち止まって私を待っていてくれる。





「、行こ」





(そして優しく、)その手を伸ばしてくれるのだ。

私が彼の手を握り返す、
その力はとても弱いかもしれないけれど。
私の気持ちが少しでも伝わればいい、と願ってしまう。







「、わあ」







思わず声が漏れる。

彼が手を引いて連れてきてくれたのは街が一望できる場所。平日の昼、人も殆どいない。







「感動した？」

「、うん」

「良かった」








彼の笑顔に私の心臓が少し跳ねる。

少年のようなその笑顔がとてもとても好きだ。








「たく」




このまま聞いていて






半歩後ろから、彼の背中を見て息を吸い込む。

大きいな、卓の背中は。







「わたし、たくさん傷がある」






両腕に。お腹に。
綺麗な体だなんて、とても言えない。






「でもね、…全部一緒に、生きていこうと思う」







傷は癒えても消えることはない。

苦しかった過去も、全部。私の一部だ。






「それでも、卓の隣にいていいかな、」







涙がひとつぶ落ちる。

振り返らないで、と言ったのに、
彼は私を大きな体で抱きしめた。








「あたりまえ」

「……、」

「ふたりで一緒に、行こう」







うん、と頷く。

久しぶりに重なったそれは、ひどく優しいキスだった。








〔 長い長い夜が明けた 〕





.

42.すずき せいや。→←〇.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す