6mm.

38.いしかわ しんご。 ページ11

(いつかの2人の続き)








そのスマホが鳴らなくなって、3ヵ月が経った。
それは彼のトレードのニュースが出てから。

彼は、どこで、何を想っているんだろう。


むかし、私は彼に言った。


「 あなたのためなら なんだってしてあげる 」


その言葉に嘘はない。









プルルル、

「、もしもし？っ」

「Aさん、今日会える？」

「うん。…私の家でいい？」

「すぐ行く、」









今だって、彼が悲しいなら代わりに泣いてもいい。
彼が旅立つなら私はその背中を見送りたい。


……彼の邪魔にはなりたくないから。









「久しぶり。」

「……ん、入って。」

「おじゃま、します。」









きっと、彼は私に言うだろう。

東京へ行くから、と。

｢ さようなら ｣、と。









「ご飯は、」

「いらんから、話、させて。」








泣くのは、彼が帰ってから。

かたく心の扉を閉めて、私は彼の前に座った。









「ニャースは、さすがに見たよな。」

「…うん、東京に行くって、」

「そう、俺行かなあかんねん。せやから、」







心の中で、私はそっとつぶやいた。

バイバイ慎吾くん。大好きよ。








「…俺と、結婚してください。」







そっと出された真紅のケース。

開けると、キラリと光る指輪が。









「なんで、」

「むかし、俺にAさん言うたやろ『あなたのためなら なんだってしてあげる』って。」

「……」

「俺のそばで俺を支えてほしい。」









自己中でごめんな、って笑った顔を見て
ホロリと零れた涙に、声が出なくなった。









「返事は、」

「……私の人生、慎吾くんにあげる、」









巣立つあなたを見送るんではなくて、
私もあなたと飛び立とう。


彼の羽を休める場所でいられるように。








〔 笑顔と涙と はじまりの夜 〕







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