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「はぁ」
帝劇の入口でそっとため息をついた。
こんな憂鬱な現場は初めてだ。
私が岸くんを好きでいる限り、平野紫耀という存在は切っても切り離せない存在であることは確かで、どうしても彼を目にしなければならない。
別に、見たくないわけじゃない。
ただ、今の私に、平野紫耀に”紫耀くん”の面影を探さずにいられる自信はなかった。
よりによって今日は2階の最前。
平野紫耀がフライングで近くにくる席だ。
お願いだから、私のことを見つけないで。
…いやもう、彼が私を探すはずもないか。
きっと、呆れられて嫌われた。
最初から最後まで意味の分からない女だと思っているに違いない。それでいい。
久しぶりに生で見た岸くんはやっぱり最高にカッコ良かった。
今ならオタ卒出来るかと思ったけれど、やっぱり無理そうだ。
私は一生ジャニヲタで、岸くんは一生アイドル。
願望もこもっているが、これが正しいあり方だ。
手の届かない人でいい。
どんなに物理的に近づいたとしても、アイドルとファンの間にある透明な壁は壊れない。
壊しちゃいけないんだよ。
好きだよ。アイドルの平野紫耀が。
…2番目だけど。
そしてついに舞台は終盤。
キンプリがLet's Go To Earthを歌い始め、平野紫耀が会場を華麗に舞う。
見ない。絶対に見るもんか。
私は岸くんだけ見てればいいんだ。
なのに。
吸い寄せられるかのようにして、私と平野紫耀の瞳と瞳がバチっと音を立ててぶつかった。
フッと“紫耀くん”が、微笑む。
とびっきりの優しい顔で、視界に私だけを写して。
自惚れなら良かった。
ズルいよ…本当に貴方はズルい。
いつだって、一瞬で全部持ってくんだ。
私の葛藤を嘲笑うかのようにして。
ポタッと、手の甲に小さな水溜まりが広がった。
好きだよ。
“紫耀くん”のことが1番好き。
もっと素直で、単純な女なら良かった。
真っ直ぐに好きだと叫べたらどんなに楽だったろうか。
でも私は頑固で頭でっかちで、膨らみすぎた”好き”を泣くことでしか消化出来ない。
この涙は全部、私が言葉に出来なかった想いの欠片だ。
もう暫くは勝手に好きでいさせてね。
きっとすぐまた、アイドルの"平野紫耀"として好きになれるから。
だからもう少しだけ、貴方のための涙を流させて。
そしてもう、私のことは忘れて。
きっと私は貴方のことを忘れられないけれど。
勝手でごめんね。大好きだよ。
伝えられない想いを静かに飲み込んだ。
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ななな - 更新楽しみにしています! (2017年11月1日 21時) (レス) id: ba7bc7167b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:優美 | 作成日時:2017年10月24日 1時