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その夜、帰宅した私はスマホとの睨めっこをかれこれ30分くらい続けていた。
平野紫耀のLINEをブロックする一歩手前で、うだうだと悩んでいたのだ。
勝手に消したら失礼じゃないだろうか。
失礼も何も、もう関わることのない相手なんだから関係ないじゃないか。
ああ、でも彼は私のバイト先を知っている。
またそこに来たらどうしようか。
いや、そもそも彼に私への執着がそこまであるわけないじゃないか。
よし、消そう。今度こそ。
そう決意した時、LINEが新着メッセージを告げた。
平野紫耀からだった。
『今、電話してもええ?』
泣きたくなった。
決意が、一瞬にして崩された。
でも本当は、どこかで待っていたんだ。
私の決意を彼が壊してくれるのを。
『いいよ』
すぐにかかってきた電話。
「…もしもし?」
「はい。平野です(笑)」
なんだかホッとした。
張り詰めていた神経が、一気にほどけた。
「今日は見にきてくれてありがとう。あ、俺を見に行った訳じゃないとか言わんといてな?普通に傷つくから(笑)」
「ふふ(笑)」
「Aちゃんのことすぐ見つけた。分かりやすい所にいてくれて助かったわ」
じゃああれは、気のせいじゃなかったんだ。
自然と頬が緩んだ。
「お疲れ様。紫耀くんカッコよかったよ」
「Aちゃんは嘘つきやな。岸くんばっか見とったくせに」
「だって、」
「俺は2番目やもんな?」
「………」
「黙らんといてよ(笑)」
「ごめん(笑)」
「アカンな。Aちゃんのこと見つけてから、Aちゃんのことばっか見てもうたわ」
っ…
何を、何を言い出すんだこの男は。
そんなこと言われたら、勘違いしてしまうじゃないか。
戻れなくなるじゃないか。
でも。
「…ダメだよ。紫耀くんはみんなのものなんだから」
「…そうやな」
「…なぁ、Aちゃん」
弱々しい声が、耳元を擽った。
「会いたい」
求めるなとあれだけセーブしたのに。
戻れるうちになかったことにしようと決めたはずなのに。
求められたら、私はそれを跳ね除ける術なんて知らないんだ。
「なんか言ってや(笑)」
会いたい、なんて言えない。
怖いの。戻れなくなるのが。
「じゃあ、”はい”か”いいえ”で答えてな?Aちゃんは俺に会いたい?」
この人には私の迷いなんて全部お見通しだ。
だから選択肢を与えた。心理学の常套手段。
ずるい人だ。
答えなんて最初から決まっていたのに。
「…はい」
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ななな - 更新楽しみにしています! (2017年11月1日 21時) (レス) id: ba7bc7167b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:優美 | 作成日時:2017年10月24日 1時