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それからしばらく経っても
妹がこの島にやってくることはなかった
毎日電話をかける祖母は
今日もダメだったと肩を落とす
もう事故から半年経っていた
いつまでも意固地になる妹に
俺は焦っていた
誰も頼る人もおらず
独りで苦しみ続ける妹が
あの時のしげと被る
久々に、あそこへ行こう
足を向けた先は、あの崖だった
相変わらずの獣道を抜ければ
あんなことがあったのが嘘のように綺麗な空間が広がっている
いつものように海を眺めるそいつは
まだ蕾さえつけない桜の木に寄りかかっていた
「しげ」
そう呼べば
俺を振り返ってすっかり冷たくなった瞳を隠すように笑う
もうしばらく本当の笑顔は見ていない
未だに独りを求め続けるこいつは
東京にいる妹とおそらく同じだ
「何してんねん、危ないやろ」
「大丈夫やって
俺は慣れてるから」
俺は、そうだ
この島で生まれ育った者はこの場所の危険の避け方を知っている
ただ、海に近づかなければいいだけだ
それさえ分からない幼いあの子は
たった1ヶ月しか一緒にいなかった友達を探し求めてここから落ちてしまった
あの時のしげの顔を
忘れるように頭を振った
「流星、妹どうなった」
「どうにもなってへん
何も進展なしや」
あの話をしてから
ずっと気にかけてくれているしげは
俺が焦っていることも知っていた
どこか達観しているこいつは
いつでも人の気持ちに鋭い
そのくせ自分の気持ちには鈍感なこいつは
不器用な生き方をしている
「なあ、どうすればええんやろな」
「そんなん俺に聞くなや」
「せやな」
誰に聞いたって同じ答えが返ってくるだろう
俺がどんなに考えたって
周りがどんなに動いてくれたって
結局はあいつの気持ち次第なんだから
この離れた地からでは
何もできないのかもしれない
ため息をつく
それは、白く染まり宙を漂った
「幸せ逃げんで」
「逃してんねん」
テキトーに返事をすれば
呆れたように眉を下げるしげ
早く春が来ないか
桜の木を見上げながら春に焦がれた
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作者名：民 | 作成日時：2018年11月3日 16時
