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「あ、なあ
しげって今どこにおるかな」
そろそろ夕方になってしまうし
港にもいくなら早いとこしげに挨拶を済ましたい
「んー、いつものとこちゃう？」
望のその言葉に
やっぱりか、とため息をつく
あの場所は危ないと何度言っても聞かない
もうすでにあいつにとってお気に入りの場所ではないはずなのに
あの場所へ行くことを止めようとしない
「ありがとう」
そう言って来た道を引き返せば
付いてきた妹に望が大声で話しかける
それに構う余裕もなく
歩くペースを早くした
焦っている
今までしげがそこで何かをしたわけじゃないが
それでも、あの場所にいるとこを想像すると嫌なことしか考えられない
いつの間にか、Aに歩幅を合わせることも忘れていた
相変わらずの獣道に足を踏み入れる
もう前しか見えていない
後ろから聞こえてくる足音は
どんどんと遠ざかっていると言うのに
ふと気がつくと
聞こえていたはずの足音は自分のものだけになっていた
振り返れば、遠く後ろで蹲る妹
「A！」
咄嗟にその場に駆け寄れば
痛そうに顔を歪める妹と目が合う
「ごめんな、俺、全然気づかんかって」
目線を合わせてしゃがみ込めば
右脚を抑えていることに気がついた
さっき神ちゃんから聞いたばかりだ
昔怪我をした脚が痛むのだ
何も言わず振り向きもせず進んでいく俺に必死に付いてきたのだろう
そのせいで無理をさせてしまった
しげのことを考えるあまり
目の前が見えていなかった
おぶろうと背中を向けても
気を使うように声をかけてくるので
無言で急かすと素直に乗ってきてくれた
一つのことに集中して周りが見えなくなるのは昔からの悪い癖だった
こんなんじゃダメだ
グッと唇を噛み締めた
木々が生い茂るその道を抜ければ
見慣れた崖と色のない桜の木
やはりそこに、しげはいた
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作者名：民 | 作成日時：2018年11月3日 16時
