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その日、夕方になると母がやって来た
息を切らした彼女は
島中駆け回って俺のことを探してくれたらしい
2人に顔を見せない俺を怒ることもせず
優しく抱きしめてくれた
そんな優しさに耐えきれず
母の腕の中で涙を流せば
4つ上の兄たちは俺の頭を撫でてくれた
みんな本当は心配していたんだ
いつもなら母が帰ってくる前日から走り回っている俺が
今回に限っては家から一歩も出ず
終いには迎えにも行かずにここに篭っていたのだから
母に一緒に帰ろうと手を引かれたが
妹に会いにくい俺は
首を横に振った
それを咎めることも
強引に連れて行くこともなく
笑顔で頷いて母は受け入れてくれた
淳太には申し訳なかったが
その日はみんなで淳太の家に泊まり
翌朝呼びに来たばあちゃんに連れられ
船着き場近くの防波堤から母を見送ることにした
小さく見える母は、俺の姿を捉えれば
大きく手を振ってくれた
それに俺も全力で応える
妹の姿は、ほとんど見えなかったけど
小さい女の子が母の手を必死に握っていた
あれが、俺の妹なんや
顔は見えなければ、姿も朧げにしか捉えられなかったけれど
本当に存在していた血の繋がる少女は
確かに俺の妹だった
それから月日は流れ
俺も今年で高校を卒業する
卒業したら、本州の大学に進学しようと決めていた
そのために週末になると帰ってくる大学生の淳太に勉強を教えてもらっていたが
集中力のない俺はすぐにちょっかいを出してしまい
なかなか上がらないテストの点数に焦っていた
神ちゃんも同じ大学を受ける予定だった
幼馴染とこの島を出ても一緒に過ごせることが
俺にとっては嬉しいことだった
その日も、いつも通り淳太の家にいた
夕方になり家に帰ると
玄関を開ける前から何やら嫌な予感がしていた
このモヤモヤが何なのか
その正体がわからないまま扉を開くと
廊下に置いてある電話の前で
祖母が受話器を持った腕を垂らし
ボーッと立っていた
俺の普段当たらない予感は
こんな時ばかり的中してしまう
祖母から言われた言葉を
受け入れようとしなかった俺は
きっとあいつよりも弱い人間だった
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作者名：民 | 作成日時：2018年11月3日 16時
